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ANZBMS 2016 レポート
田中 智代(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科歯科矯正学分野)

田中 智代
ANZBMS plenary poster session

紹介演題 [1]
Synchrotron micro-CT time-lapsed imaging of the human femur microstructure under load (37756)

キーワード

micro-CT imaging

研究グループ

Egon Perilli1 , Saulo Martelli1

  • 1. The Medical Device Research Institute, School of Computer Science, Engineering & Mathematics, Flinders University, Adelaide, SA, Australia
サマリー&コメント

メカニカルテストを伴うマイクロCTのタイムラプス撮影は、骨の奇形や骨折の機序の解明ために用いられることが多くなった。しかしながら、これまでの大腿骨のイメージングは、負荷をかけた核心部の狭い範囲に限られていた。本研究ではヒトの大腿骨骨端の全体を観察するために、シンクロトロンマイクロCTのタイムラプス撮影を行った。
56-91歳の女性12人の大腿骨を用いて観察を行った。サンプルは圧縮ステージの内部に設置され、マイクロCTスキャンにはAustralian Synchrotron (31 µm/voxel, isotropic)を使用した。負荷の段階ごとにマイクロCTスキャンで撮影した。それぞれの段階で直径160mm、高さ130mmの総体積を25分かけて撮影した。4つの大腿骨は負荷により破折したが、8つは破壊されなかった。
5-6回負荷を増加したところ(1998 - 8636N)で大腿骨の破折が観察された。2次元と3次元のマイクロCT画像では骨梁や皮質骨の変形や破壊を示した。マイクロCT画像で観察された大腿骨頸部骨頭下骨折は、臨床的にみられる骨折のパターンと一致していた。
シンクロトロンマイクロCTイメージングにより、段階的なメカニカルテストを伴うヒト大腿骨骨端全体のタイムラプス撮影が31µm voxelのサイズで行われた。臨床的な骨折パターンが再現され、マイクロCTでの骨の微小構造の観察が可能になった。負荷に耐えるための微細構造の違いを調べるために構造解析を行うことが課題である。

大腿骨骨端全体の圧縮による骨折の過程がCT撮影により鮮明に観察されていた。シンクロトロンにより発生される光は、様々な波長の電磁波を取り出すことができるため、物質の解析から半導体作製などの様々な分野で応用されている。経時的なマイクロCT撮影への応用は、詳細不明の硬組織疾患の発症機序や治癒過程の解明に繋がることが期待される。

紹介演題 [2]
A novel collagen scaffold for improved tendon-bone healing

キーワード

scaffold, tendon-bone interface

研究グループ

Mei Lin Tay1 , Karen Callon1 , Ryan Gao1 , Donna Tuari1 , Jie Zhang2 , Dipika Patel2 , Jillian Cornish1 , David Musson1

  • 1. Medicine, Bone & Joint Group, Auckland, New Zealand
  • 2. Opthalmology, University of Auckland, Auckland, New Zealand
サマリー&コメント

回旋筋腱板の損傷は特に高齢者に多くみられるが、外科手術後の予後が悪いことから、治癒向上のために人工組織片の移植が提案されてきた。本研究では、層状構造で優れた機械的特性を持つ、新しいコラーゲンスキャフォールドの性能を評価した。
スキャフォールド上で培養した細胞の反応を調べるために、ヒト単球細胞を培養し、炎症性サイトカインの発現を経時的に評価した。スキャフォールド上での幼若腱細胞の培養により、細胞毒性を評価するためにalamarBlue®と蛍光染色を行った。さらに、成熟したラットの上腕骨から棘上筋を切除し、腱の縫合のみを施した群と、スキャフォールドを用いて縫合した群とで特徴を比較した。処置後12週で、生体力学的特性をInstronを用いて評価した。また、コラーゲン線維の密度や方向性、腱骨結合部の治癒、脈管や炎症性細胞を識別するために腱部のH&E染色を行った。
スキャフォールドによる培養では炎症性サイトカイン(IL-1β, TNF-α, IL-8)の発現増加は見られなかった。alamarBlue®と蛍光染色によりスキャフォールド上で7日間培養した腱細胞の接着性と成長を確認した。統計的な差はなかったが、スキャフォールドを用いて修復された腱骨結合部の弾性は増加し、最大荷重はわずかに減少した。両群の間に構造の違いは見られなかった。
本研究では新しいコラーゲンスキャフォールドは細胞適合性があり、腱骨結合部の治癒を増大させる可能性が示唆された。スキャフォールドに対する細胞反応の特徴を把握し、機械的強度の増加など、生体内でより良い治癒効果をもたらす可能性について調べることが課題である。

本研究では新しい人工材料の細胞毒性と機能性の評価が行われ、腱骨結合部の損傷に対する臨床応用の可能性が示唆された。再生医療研究において、足場を用いずに細胞のみで組織再生を行うscaffold-freeの技術が進んでいるが、生体外で細胞が効率的に接着、増殖するために、細胞外マトリクスの環境を再現できるような人工的なscaffoldの利用も必要とされている。人工材料が臨床応用に至るまでには安全性の確立が不可欠であり、機能性と安全性の調和のとれた材料の開発が期待される。

田中 智代
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田中 智代
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