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ASBMR 2016 レポート
高士 祐一(徳島大学 先端酵素学研究所 藤井節郎記念医科学センター)

高士 祐一

紹介演題 [1]
Role of FGF9 in Promotion of Early Osteocyte Differentiation and as a Potent Inducer of FGF23 Expression in Osteocytes

キーワード

FGF9、FGF23

研究グループ

Prof. Lynda Bonewald's Lab

  • University of Missouri-Kansas City
サマリー

線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor; FGF)23は主に骨細胞より分泌されるホルモンであるが、その分泌制御機構についてはこれまで不明な点が多く残されている。演者らは新規に確立した骨細胞様細胞株であるOmGFP66およびIDG-SW3細胞を用い、これらの細胞で高発現しているFGF9に注目した。FGF9は骨芽細胞から骨細胞への分化時に重要な役割を担っているものと考えられた。さらに、FGF9はOmGFP66細胞においてFGF23 mRNA発現亢進を誘導した。そして、このFGF9のシグナルはFGF受容体(FGF receptor; FGFR)1, 2, 3を介していることを明らかとした。

コメント

骨細胞をテーマにした研究を考える場合、in vitroにおいては骨細胞様細胞株が乏しいことが大きな障壁であった。Bonewald先生の教室からは次々に有用な骨細胞系の細胞株が樹立されている。新規骨細胞様細胞株であるOmGFP66およびIDG-SW3を用いて骨細胞分化におけるFGF9の重要性とともにFGF23の産生への関与を示した点は特に興味深い。

紹介演題 [2]
Cathepsin K is Directly Involved in Osteocyte Lacunae Remodeling and in the Osteocyte-dependent Skeletal Responses to Mechanical Loading and Unloading

キーワード

カテプシンK、骨細胞性骨溶解、メカニカルストレス

研究グループ

Prof. Roland Baron's Lab

  • Harvard School of Dental Medicine
サマリー

演者らはカテプシンKの骨細胞特異的なノックアウトマウスを作出した。通常、マウスを尾部懸垂するなどしてメカニカルストレスを軽減すると、骨細胞性骨溶解が亢進しラクナ面積の拡大が観察される。しかし、カテプシンKのノックアウトマウスではこのラクナ面積の拡大、すなわちメカニカルストレスの軽減による骨細胞性骨溶解が有意に抑制された。したがって、カテプシンKは骨細胞性骨溶解および骨細胞によるメカニカルストレスへの応答に直接関与していることが見出された。

コメント

骨細胞の生理作用に関しては従来そのほとんどが謎に包まれていた。古くから骨細胞性骨溶解という現象そのものは知られていたが、その生理学的意義や詳細なメカニズムは不明であった。カテプシンKは主に破骨細胞が産生するシステインプロテアーゼの一種であり、骨基質の分解を担う。このカテプシンKが破骨細胞のみならず骨細胞にも発現していて、メカニカルストレス応答性の骨細胞性骨溶解に関与しているという本研究成果は非常に興味深い。骨細胞性骨溶解の生理的意義やメカニカルストレスの感知機構の探索という大きな課題の解決につながる可能性を秘めている。

紹介演題 [3]
The Long-Term Odanacatib Fracture Trial (LOFT): Cardiovascular Safety Results

キーワード

オダナカチブ、LOFT研究、脳卒中

研究グループ

Brigham & Women's Hospital

サマリー

新規骨粗鬆症治療薬として期待されるオダナカチブの第Ⅲ相無作為化二重盲検プラセボ対照試験、LOFT研究の心血管系イベントへの安全性の結果が報告された。本試験は16,071例の閉経後女性を対象とし、オダナカチブ50 mg/週の効果を最大5年間追跡した試験である。試験中、4300以上の心血管イベントの発症が認められた。結果、オダナカチブ投与群でHR 1.32、P=0.03と有意に脳卒中を増加させたことが明らかとなった。その他、虚血性心疾患や不整脈などには有意差を認めなかった。

コメント

オダナカチブは新規骨粗鬆症治療薬として大いに期待されていた。骨吸収を抑制する機序の薬剤であるが、従来のビスホスホネート製剤やデノスマブとは異なり骨吸収は抑制しても骨形成は抑制されず、骨回転が保たれるという特徴があった。実際に、骨密度に対する治療効果は申し分ないものであった。しかし、今回衝撃的な結果が報告された。当日、会場は立ち見者がでるほどの大入りで、注目の中、本発表が行われた。なぜ、カテプシンK阻害薬が脳卒中を増やしたのかは定かではない。