日本骨代謝学会

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ASBMR 2017 レポート
小原 幸弘(国立長寿医療研究センター運動器疾患研究部骨代謝制御研究室)

小原 幸弘

紹介演題 [1]
Fat Talks to Bone

キーワード

脂肪細胞, fat free (FF) マウス, ジフテリア毒素

研究グループ

Wei Zou, Nidhi Rohatgi, Yan Zhang, Charles Harris, Steven L. Teitelbaum

  • Washington University, USA
サマリー&コメント

近年、脂肪細胞は脂質を蓄えるだけでなく、アディポカインと呼ばれる様々なサイトカインを産生・分泌することにより体内の代謝機構を制御していることが明らかとなってきた。しかしながら、脂肪細胞による骨代謝制御機構については不明な点も多い。発表者のグループはDTAflox/flox(DTA=ジフテリア毒素Aサブユニット)マウスとAdiponectin-Creマウスをかけ合わせることにより内臓脂肪、皮下脂肪および褐色脂肪を完全に除去したマウス(FFマウス)を作製し、骨組織を解析した。その結果、驚くべきことにFFマウスでは海綿骨量(BV/TV)がコントロールの4〜5倍に増加し、皮質骨厚も有意に増加していた。また、骨形態計測の結果、FFマウスでは骨吸収が増加していたが、それ以上に骨形成が顕著に亢進していることが明らかとなった。さらに、DTRflox/flox(DTR=ジフテリア毒素受容体)マウスとAdiponectin-Creマウスをかけ合わせたマウスにジフテリア毒素を投与することにより脂肪細胞を特異的に死滅させても同様の結果が得られた。従って、脂肪組織は骨吸収を制御するだけでなく、骨形成を強力に抑制することが明らかとなった。今後、脂肪組織による骨代謝制御機構が解明されることで、骨粗鬆症をはじめとする様々な代謝性骨疾患の治療標的となることが期待される。

紹介演題 [2]
RIP140 in Osteoclast Precursors Regulates Bone Homeostasis, Growth and Osteoclast Activity

キーワード

マクロファージ, RIP140

研究グループ

Bomi Lee, Urszula T Iwaniec, Russell T Turner, Yi-Wei Lin, Bart L Clarke, Li-Na Wei, Anne Gingery

  • Mayo Clinic, USA
サマリー&コメント

多角的coregulator であるRIP140 (receptor interacting protein 140, nrip1)はマクロファージのM1/M2極性のスイッチを調節する役割を持つことが知られている。発表者のグループはマクロファージ特異的RIP140ノックダウン(mRIP140KD)マウスではM1マクロファージが減少し、M2マクロファージが増加することで、高脂肪食によるインスリン抵抗性の改善、インスリン感受性の増強や白色脂肪細胞の褐色化がみられることを報告している。骨組織においては、mRIP140KDマウスでは骨吸収の増加と骨形成の低下に起因する海綿骨量の減少が認められた。また、mRIP140KDマウス由来の骨髄マクロファージにRANKLを添加すると野生型と比較して破骨細胞形成は促進したが、破骨細胞のconditioned mediaの添加は骨芽細胞の分化を抑制した。したがって、マクロファージにおけるRIP140は破骨細胞への分化を制御するだけでなく、破骨細胞由来のカップリングファクターの産生・分泌を調節している可能性が示唆された。近年、マクロファージ自体が骨芽細胞の骨形成機能を支持する役割を持つことが報告されているが、M1/M2極性が変化したmRIP140KDマウスにおけるマクロファージによる骨代謝制御機構についても大変興味深い。今後、マクロファージに着目した骨代謝研究によりこれまでにない新しい骨リモデリング制御機構が解明されることが期待される。