日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

骨ルポ

TOP > 骨ルポ > ASBMR 2017 > 寺島 明日香

ASBMR 2017 レポート
寺島 明日香(東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座)

寺島 明日香
宿泊ホテルのウェルカムボード。

紹介演題 [1]
Causal Role of Senescent Cells in Mediating Age-Related Bone Loss

キーワード

老化細胞, 骨量調整

研究グループ

Joshua Farr, Megan Weivoda, Ming Xu, David Monroe, Jad Sfeir, Mikolaj Ogrodnik, Nathan LeBrasseur, Matthew Drake, Robert Pignolo, Tamar Tchkonia, James Kirkland, Sundeep Khosla

  • Mayo Clinic
サマリー

DNAダメージの蓄積や様々な細胞ストレスは、増殖や細胞周期の阻害、分化の最終段階などに影響する。p16ink4aは正常細胞では発現レベルが低いのだが、分裂寿命に達したり発がんストレスが生じたり細胞老化が生じると、発現増加が見られる。加えて、老化細胞は老化関連分泌形質(SASP)を産生することが知られている。研究チームは、加齢関連骨量低下における老化細胞の役割を3つのストラテジーで老化細胞を除去することにより調べた。1) p16ink4aプロモーターの下流でAP20187薬剤誘導性にCaspase-8が発現するINK-ATTAC遺伝子を導入したマウスで、老化細胞を「自殺」させる、2) 増殖や静止期、分化している細胞には影響を与えずに老化細胞を殺すことができる「老化細胞除去」薬として報告された、ダサチニブとケルセチンの併用投与、3) 老化細胞によるSASP産生を阻害するJAK阻害剤投与を用いた。20-22週の老齢マウスにおいて骨形成を測定したところ、骨量、微小構造、強度のいずれも改善していた。これは、骨吸収が抑制されているためであった。In vitroの老化条件的培地では、骨芽細胞の石灰化が阻害され、破骨細胞の生存は促進された。以上より、老化細胞を除去すると、骨組織では、破骨細胞の機能が抑制され、骨芽細胞を活性化することで、骨量増加に傾くことがわかった。

コメント

老化細胞が蓄積すると、破骨細胞分化の亢進と骨芽細胞の機能阻害が起き、加齢性骨粗鬆症の一因となりうることが報告された。JAK阻害剤だけで破骨細胞分化が抑制され骨形成が上昇するというuncouplingな骨形成を誘導できていたのが興味深い。老化細胞が蓄積すると悪影響をもたらすことは他の臓器でも示されているので、老化細胞の除去あるいは老化細胞から産生される分泌タンパク質の阻害といった老化細胞を標的にした治療戦略は、加齢性骨粗鬆症の改善だけではなく、加齢に伴って生じる病的変化の改善など、多岐にわたる影響が期待される。

紹介演題 [2]
Re-Expression of Estrogen Receptor Alpha in Osteosarcomas Leads to Osteoblast Differentiation

キーワード

骨肉腫, エストロゲン受容体

研究グループ

Susan Krum1, Gustavo Miranda-Carboni2, Maria Angeles Lillo Osuna2

  • 1. University of Tennessee Health Science Center
  • 2. University of Tennessee Health Science Center
サマリー

骨肉腫は骨芽細胞やその前駆細胞の有害な形質転換である。正常な骨芽細胞はエストロゲン受容体α (ERα)を発現しているが、2008年の研究によれば、病理学的解析により28の骨肉腫のうち、ERαを発現しているものは0であった。骨芽細胞から骨肉腫への転換におけるERαの役割については不明である。女児に比べ男児が骨肉腫を発症しやすく、思春期にがんが発症するので、性ホルモン、エストロゲンがこの病気の開始に関わっていると仮説を立てた。いくつかの骨肉腫のラインと骨肉腫患者から得られた骨肉腫にはERαの発現が見られなかった。また、骨肉腫の骨芽細胞ではERα遺伝子のプロモーターがDNAメチレーションを受けていた。研究チームはERαを再発現させることで、正常な骨芽細胞分化を誘導し、異常な増殖を止められないかと考えた。ERαを骨肉腫のラインであるU2OSと143Bに過剰発現させた。すると、増殖は有意に阻害されたが、骨芽細胞の分化マーカーとして知られるアルカリホスファターゼの発現と活性は上昇していた。骨肉腫細胞にERαを再発現させるために、DNAメチレーション阻害剤デオキシシチジン(DAC)を添加した。するとERαの発現は上昇し、それに伴ってアルカリホスファターゼの発現上昇など骨芽細胞分化促進が観察された。また、17-エストラジオールの添加によって、骨芽細胞への分化が誘導された。次に研究チームは143Bのin vivoでの移入モデルにDACを使用した。DACを投与した骨肉腫モデルマウスでは腫瘍のサイズと転移が減少していた。

コメント

研究チームはオステオサルコーマ患者の身長が比較的高いというところから、分化・増殖メカニズムと何か関連があるのではないかと着想したそうである。骨芽細胞のERα刺激が分化を誘導し、ERα発現を失うと増殖優位になってしまうことを提唱した。ERαの発現量を調節することで骨肉腫のライン細胞を正常な骨芽細胞に分化させたというのは興味深い。また、FDA認可済みのDNAメチレーション阻害剤DACの投与でオステオサルコーマの改善が見られたというのは、今後の治療戦略に新たな可能性を与えるかもしれない。ERαシグナルがどのように分化と増殖を制御しているのかについて、さらなる検討が必要である。

寺島 明日香
学会会場のシンボルのBig Blue Bear(左下に人がいますので、比べてみてください。)