日本骨代謝学会

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ASBMR 2017 レポート
橋本 恭子(東京医科歯科大学 細胞生理学分野)

橋本 恭子
ポスター発表の会場前にて

紹介演題 [1]
Mice with adipocyte-specific deficiency in protein phosphatase 5 (PP5) have high bone mass due to bone anabolic activity of marrow adipocytes.

キーワード

骨髄内脂肪細胞, ベージュ化, PP5

研究グループ

Lance Stechschulte, Andrew Hendrix, Edwin Sanchez, Beata Lecka-Czernik

  • University of Toledo, United States
サマリー

白色脂肪細胞は、寒冷刺激やノルアドレナリン刺激等により褐色脂肪様細胞(ベージュ細胞)に変化し、褐色脂肪細胞と同様に熱産生を行うことが知られている。この研究グループは2013年に、褐色脂肪細胞が骨芽細胞分化を促進することを報告した。また、2016年には、Protein phosphatase 5 (PP5) の全身欠損マウスでは白色脂肪細胞のベージュ化がみられ、熱産生が増加するとともに、骨量増加を示すことを見出した。そこで今回の研究では、骨量増加に対する脂肪細胞の寄与を調べるため、脂肪細胞特異的PP5欠損マウスを作成した。このマウスでは、白色脂肪細胞のベージュ化とともに骨形成の促進による骨量増加がみられた。さらに、このマウスから骨髄由来初代培養細胞 (PBMC) を採取して解析を行ったところ、野生型と比較して骨芽細胞分化能に差はなかったが、ベージュ化のマーカーであるUcp-1、Prdm16の上昇がみられた。そこで、この研究グループは骨髄内の脂肪細胞が骨芽細胞分化に寄与している可能性を考え、脂肪細胞特異的PP5欠損マウス由来PBMCの培養上清を野生型マウス由来PBMCに添加したところ、骨芽細胞分化関連遺伝子の上昇およびALP活性の上昇がみられた。この結果から、骨髄内脂肪細胞のベージュ化が骨形成を促進する可能性が示唆された。

コメント

ベージュ細胞は代謝分野において近年、Hot topicですが、多くは皮下脂肪のベージュ化に関するものです。この研究では、骨髄内脂肪細胞に注目したという点で新しく、さらに骨への作用まで繋げたという点で骨髄微小環境における細胞間の新たな相互作用機構として興味深いと感じました。

紹介演題 [2]
Notch2 pathway and breast cancer cellular dormancy. A role for osteoblasts.

キーワード

骨髄ニッチ, 休止期がん細胞, Notch pathway

研究グループ

Mattia Capulli, Dayana Hristova, Zoe Valbret, Ronak Arjan, Antonio Maurizi, Alfredo Cappariello, Nadia Rucci, Anna Teti.

  • University of L’Aquila, Italy
サマリー

乳がんの骨微小転移巣は、長期間にわたって休止状態を保ち、長期寛解後の再発の原因となることが知られている。この研究グループは、骨髄において長期休止状態にある乳がん細胞ではNotch2 pathwayが活性化しており、長期造血幹細胞 (Long-term HSC; LT-HSC) 様の性質を示すということを報告した。ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231をヌードマウス脛骨内に移植し、4週後に骨髄内を観察したところ、Ki67陰性の乳がん細胞がSNO細胞 (Spindle-shaped N-cadherin+ osteoblasts) に接着している像が見られた。これはLT-HSCに類似した所見である。またLT-HSCの分化にはNotch pathwayが重要な役割を果たすと知られていることから、乳がん細胞におけるNotchレセプターの選択的阻害実験を行ったところ、乳がん細胞の休止状態にはNotch2の発現が重要であることがわかった。そこで、骨髄中のNotch2陽性乳がん細胞を解析したところ、LT-HSCのマーカーであるSca-1、CXCR4、c-Kitの発現がみられた。さらに、Notch pathway阻害薬dibenzazepineを上記のマウスモデルに投与すると、乳がん細胞と骨内膜との距離が有意に増加し、肝転移が促進された。この結果は、骨髄内で長期休止状態にある乳がん細胞がLT-HSCに”擬態”し、ニッチを共有している可能性を示しており、再発の分子メカニズム解明の一助となると考えられる。

コメント

骨転移巣では、がん細胞が骨芽細胞や間葉系幹細胞などと相互に作用し合っていることが数多く報告されています。また、造血幹細胞の分化において骨芽細胞や間葉系幹細胞が重要な役割を果たすことも解明されてきています。この研究では、がん細胞と、造血幹細胞も含めた骨髄微小環境とのかかわりに注目したという点が面白く、今後の研究が期待されます。

橋本 恭子
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