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ANZBMS 2018 レポート
梶川 修平(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 フロンティア研究室骨分子薬理学)

梶川 修平

紹介演題 [1]
(OR7) STAT3 signaling in heterotopic ossification following spinal cord injury

キーワード

Neurological heterotopic ossification (NHO)、Oncostatin M (OSM)

研究グループ

Kylie Alexander, Hsu-Wen Tseng, Marjorie Salga, Whitney Fleming, Frederic Torossian, Irina Kulina

  • Mater Research Institute, The University of Queensland, AUS
サマリー&コメント

外傷性脳損傷(traumatic brain injury:TBI)や脊髄損傷(spinal cord injury:SCI)に高頻度に合併する軟組織の異所性骨化症、すなわちNHO(神経原性異所性骨化)は、股関節、膝関節、肩関節周囲の重篤な変形と痛みにより患者のQOLを著しく低下させる。様々な治療の試みが検討されてきたが、唯一有効とされる外科的切除についても再発率の高さが問題とされている。そのため、NHO発生機序の全貌解明とその治療ターゲットの発見が急がれている。
過去に、本演題の演者のグループは、SCIに伴うNHOの特徴を模すモデルマウスの確立に成功し、マクロファージ除去剤Clodronate liposome処理でNHOがほぼ抑制出来たことからマクロファージ誘因性炎症がNHO発生に極めて重要であることを発表した(J Pathol. 2015 Jun;236(2):229-40)。その後、更に、マクロファージのOSMが筋前駆細胞(muscle interstitial cells、muscle satellite cells)の骨原性分化と石灰化を誘導するNHOのキーメディエーターとして働くことを見出し、実際にNHO患者でもOSM発現が高くなっていることを報告した(JCI Insight. 2017 Nov 2;2(21))。
本研究発表では、OSMがその受容体下流でJAK1/2によるSTAT3リン酸化を誘導することで骨原性分化や石灰化を引き起こしていること、実際にJAK1/2阻害剤によってNHOの抑制に成功したことを示し、JAK/STAT経路の阻害がNHOの予防、治療戦略として使える可能性を新たに提唱しており、NHOの全貌解明にまた近づいたことを実感させる内容だった。

紹介演題 [2]
(IS7) Conversion of Human Fibroblasts into Functional Osteoblasts by Extrinsic Factors

キーワード

Bone regeneration、Reprogramming

研究グループ

Hala Zreiqat

  • Tissue Engineering & Biomaterials Research Unit, Faculty of Engineering and IT, The University of Sydney, AUS
サマリー&コメント

骨内在性の再生能力にも限界があり、それを超す病気や外傷による広範囲の骨欠損では骨再生医療が欠かせず、自家骨や種々の材質で出来たセラミックス(人工骨)の移植が行われる。現在もより良い成果を目指して様々な研究が盛んに行われており、人工骨をスキャフォールドとして、それに細胞外マトリクスを加えたり、更に骨形成細胞や近年急速に研究が進行しているiPS細胞を充填する試みも行われている(J Adv Res. 2017 Jul;8(4):321-327)。
長年に渡って、より良い骨再生手法を多角的に検討してきた本演題の演者は、過去に、バグダッド石(Baghdadite)がスキャフォールドとしての有用であることを見出し、大型動物モデル(羊の脛骨)にも適応可能であることを最近発表した(Adv Healthc Mater. 2018 Aug;7(15):e1800218)。
今回の発表では、上述の骨再生研究に関する最新知見に加え、併行して進行しているスキャフォールドに充填する細胞の作製方法に関する研究が報告された。近年よく検討されているiPS細胞の骨再生医療への利用は細胞作製の困難さやテラトーマ形成のリスクといった問題がある。演者らが見出したタンパク(パテントの関係で、発表ではXXX proteinとなっていた)は線維芽細胞を骨芽細胞に直接リプログラミングすることが可能であり、前述したiPS細胞を用いる場合のデメリットを回避出来るという。現在は、このリプログラミング骨芽細胞がin vivoでも利用可能であるか検討中であり、骨の再生自体は上手くいっており、組織学的解析を行っている最中、とのことだ。私にとって馴染みのない羊という大型動物を用いた研究に興味を持ち聴いた演題だったが、骨の再生医療の確実な進歩を実感させてくれる、今後の進展を期待させてくれる充実の発表内容だった。

梶川 修平