日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

骨ルポ

TOP > 骨ルポ > ASBMR 2018 > 佐藤 大

ASBMR 2018 レポート
佐藤 大(北海道大学大学院医学研究院 専門医学系部門 機能再生医学分野 整形外科学教室)

佐藤 大

この度,9月28日~10月1日の期間にモントリオールで開催されましたASBMR 2018に口演で発表する機会をいただきましたので,報告させていただきます.9月30日のCONCURRENT ORALS: PRECLINICAL MODELS: NUTRITION AND PHARMACOLOGYのセッションで“Siglec-15-Targeting Therapy Increases Bone Mass in Rats and Is a Potential Therapeutic Strategy for Juvenile Osteoporosis”というタイトル名で発表させていただきました.発表が終わるまでは非常に緊張しておりましたが,最新の知見を学ぶことができ,非常に密度の濃い経験ができました.今回は,以下の2題について御紹介させていただきます.

紹介演題 [1]
Low Affinity Bisphosphonate Exerts a Strong Anabolic Effect on Trabecular Bone

キーワード

ビスフォスフォネート,骨芽細胞,低親和性ビスフォスフォネート

研究グループ

Abigail Coffman, et al.

  • City College of New York, United States
サマリー&コメント

ビスフォスフォネート(Bisphosphonate:BP)は,ハイドロキシアパタイト(Hydroxyapatite:HA)への親和性が高く,破骨細胞に取り込まれてファルネシルピロリン酸合成酵素(farnesyl pyrophosphate synthase:FPPS)を阻害し,破骨細胞の骨吸収作用を抑制する.HAとの親和性が低く,強いFPPS阻害作用を有するBP製剤は臨床応用されていない.半減期が短く,早期に生体内で代謝されるBP製剤は,現在用いられている半減期の長いBP製剤よりも有用な可能性がある.そこで著者らはNE-580251(リセドロネートよりHAの親和性が低く,FPPS阻害作用が同等)を用いて,その治療効果を検証した.OVXマウスにリセドロネートとNE-580251を投与し,3か月後に安楽死させ,大腿骨のマイクロCTを撮影し,骨微細構造解析を行った.OVXマウスの骨量はベースラインから70%程度減少した.想定通り,リセドロネート投与群で,OVXによる骨量の減少は予防可能であった.それ以上にNE-580251投与群では,骨量はベースラインから140%程度増加した.
詳細なメカニズムについては明らかにされていないが,NE-580251の骨に対するアナボリック作用は驚くべき結果を示した.Vitroの研究で,少量のBP製剤は骨芽細胞を増殖させ,骨形成を促進させたという報告がある.著書らは,NE-580251の特徴として,HAの親和性が低いため,長期間骨表面に留まらずにいることから,NE-580251が直接骨芽細胞に働き骨形成を促進した可能性を推測していた.

骨吸収抑制剤が過度に骨に沈着しないことによって,骨芽細胞に働き骨形成を亢進させるという報告に非常に感銘を受けた.また,新規のBP製剤が従来のBP製剤より治療効果を示し,新規骨粗鬆症治療薬の開発に大きな期待を抱いた.

紹介演題 [2]
The Calgary Vitamin D Study: Bone Microarchitecture Effects of Three-Year Supplementation With 400, 4000 or 10000 IU Daily

キーワード

ビタミンD,high resolution peripheral quantitative computed tomography(HR-pQCT),total volume bone mineral density(TvBMD)

研究グループ

Lauren A Burt, et al.

  • McCaig Institute for Bone and Joint Health, Cumming School of Medicine, University of Calgary, Canada
サマリー&コメント

近年,ビタミンD経口投与によるBone mineral density (BMD)への変化を調査した研究は多数存在しているが,骨微細構造への影響についてはあまり多くの報告はされていない.さらに,ほとんどの研究でInstitute of Medicine (IOM)が推奨するビタミンDの1日摂取量4000 IUには達していなかった.
このグループは,3年間にわたるdouble-blinded RCTにおいて,異なる投与量のビタミンD(400,4000,10000 IU/day)が大腿骨頸部のBMDやTotal volume BMD(TvBMD)や骨強度に及ぼす影響を検討した.311人の健常な男女(55~70歳)で,T-scoreが-2.5以上,血清25(OH)Dが30-125nmol/Lを被験者とした.ランダムに投与量に応じて3群に振り分けられ,3年間経過観察された.大腿骨頸部のBMDをBase line時と1年ごとに測定し,high resolution peripheral quantitative computed tomography(HR-pQCT)を用い,橈骨と脛骨のTvBMDと骨強度をBase line時と6,12,24,36か月ごとに計測した.
血清25(OH)Dは3か月後に,400 IU/day:76, 4000 IU/day:115, 10000 IU/day:188と上昇した.大腿骨頸部のBMDは3群の中で有意な差は認められなかった.それに対して,橈骨と脛骨のTvBMDは,それぞれ400 IU/day:-1.4%, 4000 IU/day:-2.6%, 10000 IU/day:-3.6%,400 IU/day:-0.9%, 4000 IU/day:-1.2%, 10000 IU/day:-2.1%とビタミンDの投与量が多くなるにつれて有意に減少した.橈骨と脛骨の骨強度については有意な差はなかった.以上の結果からビタミンD充足状態の健常者にビタミンDを補った場合に,DXAで計測したBMDには影響を与えないが,HR-pQCTで計測したBMDは用量依存性に減少する結果となった.

骨粗鬆症患者へのビタミンD投与の有用性は報告されているが,ビタミンDが充足状態の患者に対しては,投与過多によって骨量の低下を引き起こす可能性があるという衝撃的な結果の報告であった.治療意識の高い骨粗鬆症患者では,自身でビタミンDのサプリメントを使用している患者が多いため,処方する際にはビタミンDの充足状態の確認とサプリメントの使用の有無について確認をする必要があると感じた.