日本骨代謝学会

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ASBMR 2018 レポート
岡田 寛之(東京大学大学院 整形外科)

岡田 寛之
モントリオール市内のステーキハウスにて、あまりにも美味しかったので、二晩続けて通いました。

紹介演題 [1]
Hypoxia/HIF Signaling Contributes to Bone Homeostasis by Preventing Premature Senescence and Apoptosis of Multipotent Mesenchymal Progenitor Cells

キーワード

骨髄微少環境、低酸素、HIF

研究グループ

Kassandra Spiller

  • Duke University, United States
サマリー&コメント

骨髄微少環境ニッチはHighlightsでも全演題が取り上げられるほどの、注目セッションだった。Imagingを駆使した研究は、ASBMRを席巻していた。
骨髄ニッチ内の多分化能維持における、低酸素の重要性はin vitroの理解は進んだが、in vivoの検証はまだであった。SpillerらはHypoxia inducible factor(HIF)に注目した。
Leptin受容体(LepR)発現細胞は、血管周辺の低酸素環境に集まり、HIFと共発現していた。LepR-cre; Hif-2 fl/flマウスを作成したところ、皮質骨は有意に厚かった。このマウスで骨吸収は変化がなかったが、線維形成性コロニーは減少していた。低酸素では多能性幹細胞の老化、アポトーシスを抑制し、遺伝子ダメージを減らした。以上のメカニズムにより、低酸素骨髄環境は骨の恒常性維持に寄与するものと考えた。
他にも、血管新生の非対称性に着目したペンシルベニア大学の報告、リソソームのアリールスルファターゼBが骨ターンオーバーに重要とのハンブルグ大学の報告など、骨髄微少環境に対する分子生物学的理解からの一歩踏み込んだ内容が随所に見られた。個々の役者のアイデンティティの理解の次は、統合メカニズムの解明へと進むものと筆者は考える。

紹介演題 [2]
Fracture Risk in Primary Care Not Effective

キーワード

骨粗鬆症スクリーニング、プライマリケア、脆弱性骨折

研究グループ

Thomas Merlijin

  • VU University, Netherlands
サマリー&コメント

プライマリケアにおいて、積極的に骨粗鬆をスクリーニングし治療介入しても、従来のケアと変わらず脆弱性骨折は減らなかったというNetherlandsからの報告である。
65 – 90歳の女性で、脆弱性骨折のリスク(既骨折、親の大腿骨近位部骨折歴、低体重、二次性骨粗鬆の要因)が一つ以上ある11,331名を対象とし、ランダム割付を行なった。積極介入群には、骨密度、椎体スクリーニングを行い、FRAXで治療介入を判断した。アウトカムは、初回脆弱性骨折、大腿骨近位部骨折発症までの期間とした。結果、Cox回帰分析で有意差はなかった。
先行するUKのSCOOP study(Lancet 2018), DenmarkのROSE study(Osteoporos Int 2018)で見られた、骨粗鬆積極介入の効果は、Netherlandでは見られなかった。ベースラインとなる、そもそもの骨粗鬆症の介入状況について、各国間に開きがあるものと思われる。Limitationとして、f/u期間が3.7年の時点での結果であり、より長期の観察が必要であろう。どうせしなくてはならないお節介ならば、効果の高い介入をしたいと思うのが医療者である。適正な骨粗鬆介入とは何なのか、考える端緒となる研究であった。