日本骨代謝学会

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JSBMR×医薬ジャーナル社共同企画

ASBMR 2018 シニアレポーター レポート
今井 祐記(愛媛大学プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門)

 カナダ,ケベック州モントリオールで開催されたASBMR 2018について学会参加レポートを記載する。今年の学術集会も多様な研究領域にわたるトピックが報告されていたが,参加者としては同時刻の会場にはもちろん参加できず,時間的制約もあるため,本稿で記載できるトピックは限られている。また,内容も筆者の科学的興味に基づいている部分もあるが,ご容赦いただければ幸いである。

はじめに

 カナダ,ケベック州モントリオールで10年ぶりの開催となったASBMR 2018は,例年のごとく初日午前中の“Highlights of the ASBMR 2018 annual meeting”で幕を開けたと言って過言ではない。コロンビア大学John Bilezikian教授による臨床研究トピックスに引き続いて,ハーバード大学Roland Baron教授の基礎研究トピックスが報告された(写真1)。これまでにも経験があるが,このトピックスに沿って各発表を聴講すると最近の骨代謝関連領域の流れを把握することができるので,ASBMR初参加者には,非常にオススメである。

 Baron先生は,Bone-muscle interaction,骨膜細胞,CXC motif chemokine ligand 12(CXCL12)を発現する骨髄間葉系細胞を筆頭に,今年のトピックスを次々に且つ端的に報告された。ASBMR会員であれば,以下のサイトで映像およびスライドのダウンロードが可能であるのでぜひ参考にして頂きたい。
 映像リンク
 スライドスライドリンク

 Baron教授の「あくまでも個人的な選択であるので,この紹介セッションに選ばれなかったからと言って優れた研究でないということではないので,安心してほしい」との言葉は,各研究者への敬意と激励を感じることができた。2年前から日本骨代謝学会学術集会でも,開会式前に「研究トピックス紹介」が開催されている。企画立案及び紹介の東京大学 田中栄先生と虎の門病院 竹内靖博先生からも,同様の言葉をお伺いするのは,ここにルーツがあると再確認する瞬間でした。

 以下に,限定的ではあるが2つのトピックについて紹介する。

CXCL12:CXC motif chemokine ligand 12

今井 祐記
写真1:初日,Highlights of the ASBMR 2018 annual meetingで講演する Baron教授。以前は小さな部屋で開催されるセッションだったが,現在はいわゆる第一会場で実施されている。

Bone & Muscle interaction

 Irisinは,ハーバード大学Bruce Spiegelman教授のグループが報告した,運動によって分泌が上昇する骨格筋由来のマイオカイン(ペプチドホルモン)であり,白色脂肪組織を褐色脂肪組織へと誘導する作用を有している(Nature 2012)。しかしながら骨代謝におけるIrisinの機能は明らかでなかった。そこで同教授に加えハーバード大学の骨代謝グループが,骨代謝,特に骨細胞に着目してIrisinの機能解析を実施した。その結果,in vitro実験ではIrisinはSclerostin(Sost)発現を上昇させ,骨細胞のアポトーシスを誘導,破骨細胞形成を亢進するなど骨量を負に制御する作用を示した。また一般的なエストロゲン欠乏モデルである卵巣摘出(OVX)モデルでは,血中Irisinがおよそ2.5倍に上昇することが明らかとなった。さらに,Irisinのオリジナル蛋白であるfibronectin type ㈽ domain containing 5(FNDC5)のKOマウスでは,生理的状態では骨量に変化を認めなかった。ところが,OKマウスではWTマウスと異なり,OVXによる骨量低下・破骨細胞の増加・骨細胞小腔の拡大も認めなかった。これらのことから,Irisinはエストロゲン欠乏による骨量低下に際し,骨細胞に直接的に作用していることが明らかとなった(Kim, et al:Cell in press)(#1001)。

 一方で,Osx-Creを用いた骨芽細胞特異的Irisinノックアウトマウス(cKO)の表現型について同じBostonのTufts大学から報告があった。発表者らは,Irisin −cKOマウスは,小さくかつ骨量の低下を認めることを報告し,Irisinを骨芽細胞に投与すると古典的Wntシグナルを活性化させるとした(#1108)。ところが,この報告は,上述の内容と矛盾する部分もあり,大きな議論の余地がある。会場では, マサチューセッツ総合病院(MGH)のHenry Kronenberg教授がコントロール群(発表者らは,Irisinflox/floxマウスをコントロールとして比較していた)について指摘し,「Osx-Creマウスを利用する際には,Osx-Cre自体に表現型がある場合が多い(体が小さくなるなど)ため,Osx-Creマウスをコントロールとするべきである。」とコメントしていた。筆者も2010年からOsx-Creマウスを利用しており,同腹マウスを得るのに大変苦労はするが,必ずOsx-Creマウスをコントロールとするようにしている。

 その他,筋肉から分泌されるtransforming growth factor-β(TGFβ)スーパーファミリーのメンバーであるMyostatin(GDF8)のKOマウスでは骨量増加を認めるものの,同じメンバーで且つ同じ受容体に作用するGDF11のKOマウスでは骨量低下を示すことが報告され,その詳細な分子メカニズムの解明が待たれる(#1125)。さらには,抗RANKL(receptor activator of NF-κB ligand)抗体であるデノスマブによる骨粗鬆症治療についてのFREEDOM trialの結果において転倒予防効果が見られたことから,RANKLと筋肉についての解析がマウスを用いて実施された。BonnetらはRANKL過剰発現マウスにおいて筋力が低下すること,ならびにデノスマブ投与によりその筋力低下が改善することを報告した(#1050)。このように骨格筋と骨組織の相互作用が,それぞれの恒常性維持に作用していることが明らかとなりつつあり(図),運動器全体としての理解のため,また双方の新たな治療法の開発のため,更なるメカニズムの解明が期待される。

Sost:Sclerostin
OVX:卵巣摘出
FNDC5:fibronectin type III domain containing 5
cKO:ノックアウトマウス
TGFβ:transforming growth factor-β
GDF8:Myostatin
RANKL:receptor activator of NF-κB ligand

今井 祐記
図 骨と骨格筋の間のクロストーク
骨からは,これまで報告されていたOsteocalcin (Mera,etal:CelMetab,2016)に加え,RANKLが骨格筋に影響を及ぼし,骨格筋からは IL-6,Myostatin に加えて,Irisinが骨代謝に影響を及ぼすことがわかってきた。

Bone Metastasis

 今年のASBMRでのトピックに必ずしも挙げられてはいなかったが,最終日の月曜日にはConcurrent Orals:Greg Mundy Memorial Session-Bone Tumors and Metastasisも開催されており,筆者が感じた(興味があるからではあるが)トピックとして,がんの骨転移が挙げられる。

 骨転移の早期発見は,がん患者のQOLに著しく影響を及ぼすSkeletal Related Events(SREs)の予防や治療につながるが,一般には頻回の骨シンチグラフィなどの実施は困難である。そこでSunらは血液サンプルから骨転移の早期発見の試みを実施した。乳がん骨転移モデルマウスにおいて,Luciferaseを用いたin vivoイメージングでは早くても骨転移巣の確認に移植後2〜3週間は要する。そこで筆者らは血液中のcirculating osteoprogenitor cells(cOPs)に着目した。cOPsはCD15−CD45−Osteocalcin+の細胞であり,上記のマウスモデルでは,早ければ移植後1〜2週間で血中にその存在を確認することができた。また,乳がん患者においては,骨転移を有する患者ではcOPsが多く,同じ骨転移を有する患者の中でも,進行性の骨転移を有する患者の方が,病巣が安定している(拡大していない)患者と比べてcOPsが多いことが認められた。これらのことから,骨転移の早期発見,病態の把握に末梢血中のcOPsの検出が有効であることが示された(#1138)。

 Hesseらは,骨転移しやすい乳がん自体が分泌する骨関連分子に着目し,実験的に骨転移しやすい乳がん細胞株MDA-MB-231細胞ではSostの発現が極めて高いことを見出した。そこで,抗Sclerostin抗体を投与し,MDA-MB-231細胞を移植したところ,抗体投与していない対照群と比較して有意な骨転移の抑制が認められ,生存期間の延長も確認された。また抗Sclerostin抗体の効果ならびに骨吸収型骨転移の抑制もあり,骨密度の維持/上昇も認めた。さらには,メカニズムについては全く不明であるものの,抗Sclerostin抗体群ではがんの骨転移に伴うCachexiaによる骨格筋の低下が抑制されることも同時に観察された。これらのことから,骨粗鬆症治療薬として期待される抗Sclerostin抗体ががんの骨転移予防と骨格筋萎縮にも効果を発揮する可能性が示唆された(FRI-0193, SAT-0193)。また,乳がんから分泌されるS100-calcium-binding protein A4(S100A4)が破骨細胞を刺激して溶骨性骨転移成立に重要な役割を果たしているとの発表もあった(FRI-0188, SAT-0188)。このような様々な骨転移に関連する分子の発見やメカニズムの解明により,将来的な治療法開発につながることが更に期待される。

SREs:Skeletal Related Events
cOPs:circulating osteoprogenitor cells
S100A4:S100-calcium-binding protein A4

おわりに

 残念ながら誌面の都合上,極めて限定的な演題の紹介にとどまったが,より多くの興味深い演題があり,様々な刺激を受けるとともにMotivationが高まった学会参加であった。ASBMRでは毎年多様なトピックがあり,全てのトピックを網羅することは不可能であるが,興味あるトピックについてより集中して聴講し,発表のみならず,参加者のコメントなどを通じて,全体の“流れ”を把握して頂ければ幸いである。

CXCL12:CXC motif chemokine ligand 12

今井 祐記
写真2:死ぬほど美味いと友人から聞いていたモントリオールで有名な老舗Schwartz'sのスモークミートサンドウィッチ。長蛇の列でしたが,店内は長居する客も少なく意外と早く頂くことができました。

今井 祐記
写真3:旧市街から臨むノートルダム聖堂。旧市街のSt.Paulstreet沿いには非常におしゃれなお店が多く,またモントリオールならではのカジュアルフレンチで美味しいお店が並んでいました。