日本骨代謝学会

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ASBMR 2019 レポート
塚本 学(産業医科大学 整形外科)

塚本 学
悪天候のためほとんど全ての飛行機がキャンセルとなり、ヒューストン空港で足止めを食らいました。人生初の空港泊を経験。1日遅れの現地入りとなりました。

紹介演題 [1]
Stimulation of Piezo1 by Mechanical Loading Promotes Bone Anabolism

キーワード

骨細胞、メカニカルストレス、カルシウムチャネル

研究グループ

Xuehua Li, et al.

  • University of Arkansas for Medical Sciences, United States
サマリー&コメント

骨細胞が機械的刺激を感知し、骨吸収・骨形成を調整すると考えられている。カルシウムチャネルが骨細胞のメカノセンシングに関与していることが示唆されているが、骨において、機械的刺激に対する特定のカルシウムチャネルの役割は明らかではない。関与しているカルシウムチャネルを特定するために、静的または流体流動条件下での骨細胞様細胞株MLO-Y4細胞の遺伝子発現プロファイルを比較した。MLO-Y4細胞で検出された78のカルシウムチャネル転写産物のうち、Piezo1遺伝子が最も発現しており、その発現と活性は、流体流動条件下で増加した。MLO-Y4細胞のPiezo1のノックダウンにより、流体流動条件下における反応が鈍化した。骨細胞特異的Piezo1遺伝子KOマウス(Dmp1-Cre;Piezo1f/f)は、同腹仔の対照マウスと比較して骨密度が低下し、皮質厚、骨膜周囲長、骨内膜周囲長、大腿骨・椎体の海綿骨量が低値を示していた。3点曲げ試験では、Dmp1-Cre;Piezo1f/fマウスの大腿骨における剛性と最大荷重が低値であった。Dmp1-Cre;Piezo1f/fマウスの海綿骨領域では、骨形成速度が低値を示し、骨芽細胞数が減少、破骨細胞数が増加していた。これらの細胞の変化と一致して、Dmp1-Cre;Piezo1f/fマウスでは、骨形成刺激因子であるWnt1の遺伝子発現が低下し、RANKLの発現が増加していた。Piezo1が荷重誘発性の骨形成に必要であるか否か検証した結果、荷重負荷に対する応答がDmp1-Cre;Piezo1f/fマウスで鈍化されており、Piezo1が機械的刺激に対する骨の応答に不可欠であることが明らかとなった。

骨細胞におけるカルシウムチャネルの役割については近年注目されている分野であり、メカニカルストレスに特化した研究を継続してきた我々にとっても非常に興味深い内容の報告であった。

紹介演題 [2]
Extensive Modeling-Based Bone Formation After 2 Months of Romosozumab Treatment: Results From the FRAME Clinical Trial

キーワード

ロモソズマブ、骨形態計測、モデリング

研究グループ

Erik F. Eriksen, et al.

  • Oslo University Hospital and Institute of Clinical Medicine Oslo University, Norway
サマリー&コメント

骨形成促進剤であるロモゾズマブ(Romo)は、スクレロスチンに結合・阻害するモノクローナル抗体であり、骨形成増加と骨吸収低下をもたらす。ヒトにおける骨形成マーカーのピークは、Romo投与後2か月であり(McClung, NEJM 2014)、カニクイザルの研究では、Romo投与後の新しい骨形成はモデリングベースであることが実証された(Ominsky, JBMR 2014)。FRAME試験のサブスタディである骨生検組織を用いた骨形態計測結果は、骨吸収減少を伴う骨形成の増加であった(Chavassieux, ASBMR 2017)。彼らはFRAME試験の骨生検組織を分析して、モデリングベース(MBBF)とリモデリングベースの骨形成(RBBF)に対するRomoとプラセボ(Pbo)の効果を海綿骨(Cn)、内骨面(Ec)、骨膜(Ps)の各部位で評価した。投与開始後2ヵ月目に腸骨生検が行われ、被験者は4回の標識(ベースラインおよび生検前にそれぞれ二重標識)を受けた。未染色の7μm非脱灰標本を蛍光顕微鏡で観察し、動的パラメータがCn、Ec、Psで計測された。基盤となるセメントラインは骨モデリングを意味する滑らかな形態(smooth)と骨リモデリングを意味する波状の形態(scalloped)に分別され、蛍光標識はMBBFとRBBFに分類された。骨面および標識面を基準とするMBBFとRBBFに対するRomoとPboの2か月間の効果を各部位で評価したところ、Romo投与後2ヵ月時点で、骨面に対するMBBFはEcとCnで有意に増加したが、Psでは明らかな効果はなく、RBBFに関しては全ての部位で違いはなかった。Romoの投与により、EcとCnにおけるMBBF/RBBFの比率が33%/66%から66%/33%に逆転した。本結果は、Romo投与後の初めの2ヶ月間における骨形成作用は、EcとCnにおけるMBBFが主であることを明らかにした。

日本では2019年1月にロモソズマブが承認され、臨床の現場で使用可能となった。投与後2ヶ月以降は骨形成マーカーの値は漸減していくことが知られており、この先の結果がまた気になるところである。骨形態計測に長年従事してきた我々にとって非常に興味深い内容の報告であった。

塚本 学
後輩のポスターの前で一枚。左から著者、小杉健二先生、酒井昭典教授、中村英一郎准教授。