日本骨代謝学会

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ANZBMS 2019 レポート
天真 寛文(宮崎大学 医学部 整形外科)

天真 寛文

紹介演題 [1]
Wnt-mediated mechanisms of diabetic bone disease.

キーワード

Wntシグナル、糖尿病、骨粗鬆症

研究グループ

Professor Martina Rauner

  • Department of Medicine III and Center for Healthy Aging, Technische Universität Dresden, Germany
サマリー&コメント

1型糖尿病では骨量の減少により骨粗鬆症が生じる。一方、2型糖尿病では骨量の減少よりも、主に骨質が劣化することで骨が脆弱になることが明らかになってきている。Wntシグナルは骨形成において重要な役割を担っているが、本講演では糖尿病に併発する骨粗鬆症におけるWntシグナルの関与についての知見を紹介している。

1型糖尿病動物モデルの骨では、WntシグナルのリガンドであるWnt1、Wnt10b、Wnt5aの発現低下、Wntの内因性阻害因子であるDickkopf-1 (Dkk1)およびsclerostinの発現上昇しており、PTHによるβ-カテニンの発現増加は認められなかった。

2型糖尿病動物モデルにおいても、Dkk1およびsclerostinの発現が上昇しており、骨密度の低下や骨折治癒の遅延が認められた。2型糖尿病動物モデルにsclerostinインヒビターを投与すると骨形成能が回復し、さらに骨折治癒も正常に行われるようになった。PTHはsclerostin作用を阻害することが報告されているが、PTHによるBV/TVなどのパラメーターの改善は部分的で、骨折治癒遅延は改善されなかった。この結果から2型糖尿病でもPTHへの抵抗性があることが示唆される。

2型糖尿病における骨粗鬆症で骨質が低下すること、そしてその変化にWntシグナルが重要な関与しているという点が非常に興味深いと感じた。詳細な分子機序などは検討の余地が多く残されており、今後のさらなる検討が期待される。

紹介演題 [2]
Reactive oxygen species mediate the pathogenesis of steroid-induced osteonecrosis of the femoral head by enhancing osteoclast activity.

キーワード

活性酸素種(ROS)、大腿骨頭骨壊死、ステロイド

研究グループ

Kai Chen

  • The University of Western Australia, Nedlands, WA, Australia
サマリー&コメント

大腿骨頭骨壊死は大腿骨頭の一部が壊死に陥り、放置すると変形性関節症を引き起こす。ステロイド使用歴や飲酒などがリスク因子として報告されているが、詳しい発症機序は明らかになっていない。発表者の研究グループは、RANKLによる破骨細胞分化に活性酸素種(ROS)が関与していること、卵巣摘出による骨粗鬆症モデルマウスにおいてROSの阻害剤であるLoureirin Bが骨破壊を抑制することを報告している(Yuhao Liu et al., 2019)。本研究では、ステロイドによる大腿骨頭骨壊死のメカニズムを明らかにすることを目的に、特にROSの関与に着目し検討を行っている。

大腿骨頭骨壊死を起こした患者サンプルを解析すると、カタラーゼ(CAT)、キノンオキシドレダクターゼ(NQO1)、スーパーオキシドディスムターゼ1(SOD1)などのROSスカベンジャーの発現が減少していた。また、破骨細胞数の増加も認められた。この結果を受けて、ステロイド誘導性の大腿骨頭骨壊死マウスモデルの作成を試みた。本モデルでは、大腿骨頭においてネクローシス様の変化が認められ、病変部骨内でのROS発現の上昇、破骨細胞数の増加、空のラクナの増加が認められた。これらの結果より、ステロイド投与によってROSが上昇することで破骨細胞分化が促進されることが大腿骨頭骨壊死の発症に関与することが示唆されるが、ROSが上昇するメカニズムなど詳細は不明であり、さらなる検討が必要と思われる。

ステロイドに限らず抗腫瘍薬など様々な薬剤によって、ROSが過剰に産生されるため、このような薬剤とROSを介する骨関連の合併症の発生との関連など、ROSと骨代謝との関係は非常に興味深いと感じた。