日本骨代謝学会

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ECTS 2021 レポート
木下 英幸(千葉県がんセンター 整形外科)

紹介演題 [1]
Autophagy is a critical process in osteosarcoma cancer stem cells

キーワード

オートファジー, 骨肉腫, がん幹細胞

著者

Trojani marie-charlotte et al.

  • Universite Cote d'Azur, France
サマリー&コメント

骨肉腫は初診時、肺転移のない症例では5年生存率70%程度であるが、治療経過中に局所再発や肺転移が起こると生存率が極端に低下する。またcancer stem cells(CSC)は腫瘍形成に重要であり、抗酸化作用やDNA repair等のメカニズムにより放射線および化学療法抵抗性となる。筆者らは骨肉腫細胞株からCSCを樹立し、オートファジーの関与およびチオリダジンの効果の検討を行った。ヒト骨肉腫細胞株(MNNG/HOS:MN)とラット骨肉腫細胞株(UMR)に対し、飢餓条件およびバフィロマイシン処理を行うことでオートファジー誘導を確認。さらにMNおよびUMRのCSC形成においてオートファジー誘導が十分条件であり、重要なプロセスであることを示した。また、MNおよびUMRのCSCにおけるオートファジー誘導をチオリダジンが抑制し、Na+/K+ ATPase 依存的細胞死を誘導することを示唆した。これらのことからオートファジーを標的とした薬剤が骨肉腫治療につながりうることを示した。

私自身も、日常診療において骨肉腫の肺転移症例を経験することがある。肺転移症例はミゼラブルな経過をたどることも多いため、新規治療法を確立するために現在骨肉腫の基礎研究も進めている。各種学会にて骨肉腫の発表に注目しているが、骨肉腫幹細胞におけるオートファジーの関与についての報告は馴染みがなかったために興味深く拝聴した。

紹介演題 [2]
Reversal of Doxorubicin-induced bone loss by Antioxidant supplement

キーワード

ドキソルビシン, 骨量減少, 抗酸化剤

著者

Sunil Poudel et al.

  • Universiy of Algarve, University of Algarve, Portugal.
サマリー&コメント

ドキソルビシンは様々ながんに用いられる抗がん剤である。近年、ドキソルビシン投与が骨量減少を誘導、もしくは二次性骨粗鬆症を誘発する報告がある。ドキソルビシンは酸化ストレスを介して骨量減少を誘導している可能性もあり、筆者らは抗酸化剤 (Resveratrol:RES、Mito-TEMPO:MT)のドキソルビシン誘発骨量減少に対する効果を検証した。in vitroではドキソルビシンによる前骨芽細胞の骨分化抑制をRESおよびMTが改善し、同様に両者はドキソルビシンの破骨細胞誘導を有意に抑制した。in vivoではSparus aurataおよびZebrafishを用い、ドキソルビシンが骨奇形および骨のミネラル化不全を誘導することを示し、RESとMT両者がそれらを有意に改善することを示した。これらのことより、ドキソルビシン誘発性骨粗鬆症に対し、抗酸化剤の効果を示唆した。ドキソルビシンと抗酸化剤の併用が二次性骨粗鬆症を抑制する可能性を提唱した。

骨軟部肉腫においてもドキソルビシンはkey drugとなる抗がん剤であり、日常診療でも多用し、骨粗鬆症が誘発されることを私自身も確認している。ドキソルビシンの癌腫・肉腫への治療効果の作用機序としては酸化ストレスによるものも考えられる。本研究では抗酸化剤がドキソルビシン誘発性骨粗鬆症を改善する可能性を示唆したが、そもそも抗酸化剤併用にてドキソルビシンの肉腫や癌腫への治療効果も減弱する可能性の検討も必要と感じた。