日本骨代謝学会

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ASBMR 2021 レポート
立花 直寛(東京大学医学部附属病院整形外科・脊椎外科)

紹介演題 [1]
YAP and TAZ Mediate Mechanical Regulation of Bone Development Ex Utero

キーワード

機械的刺激、YAP /TAZ, 骨形成

研究グループ

Joseph Collins, et al.

  • University of Pennsylvania, United States
サマリー&コメント

胎内で加えられた機械的刺激が長管骨の発達に影響を与えると報告されているが、その分子メカニズムは不明である。出生前のマウスの後肢を摘出し培養下に機械的刺激を与え、機械的負荷が長管骨の形態形成に及ぼす影響を調べた。

従来、機械的刺激に関与する転写因子であるがYAPとTAZは、子宮内で長管骨における軟骨内骨化と一次骨化中心(POC)を制御することで骨格形成を促進することが明らかにされている。そこでマウスの後肢を摘出して骨形成培地で培養しながら力学的な負荷をかける系において、[1]薬剤投与と[2]conditional KOの2つのアプローチでYAP/TAZの活性を阻害した。力学的負荷は1日3回、0.67Hzで2時間にわたり膝を周期的に屈曲させた。コントロール群は刺激を加えず培養した。

[1]verteporfin投与下で培養しYAP/TAZ活性を阻害したところ、静止時の骨形成には影響しなかったが、力学的刺激による骨形成を阻害した。
[2]Osx特異的にYAPとTAZを欠損させると、力学的刺激による骨形成を阻害した。

以上より、YAP/TAZは胎児期の荷重による骨形成のメディエーターであり、骨芽細胞系の細胞がYAP/TAZによる骨形成の機械的制御に関与していると考えられた。

出生前マウスの後肢を取り出してそのまま培養しながら力学的負荷をかけるという発想が斬新であった。機械的刺激は従来より様々な病態との関与が報告されているが、胎内においても機械的刺激が発育・形成に関与しているという、機械的刺激の重要性を改めて感じた。

紹介演題 [2]
Identifying Regulators of Phosphate Sensing in Bone Cells

キーワード

無機リン酸、骨細胞

研究グループ

Lauren Surface, et al.

  • Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School, United States
サマリー&コメント

無機リン酸(Pi)の生体内での恒常性は、血清中のPi濃度を一定に保つために厳密に制御されており、生体機能の維持に不可欠である。細胞や器官がどのようにしてPiの変化を感知するのかは未解決の問題である。

In vitroの系で、細胞外のPi濃度の変化を感知して応答する骨細胞の因子を特定し、生体のPi恒常性維持のメカニズムを調査した。

骨芽細胞系の細胞株MC3T3-E1と骨細胞系の細胞株OCY454高濃度のPiを含む培地に30分、6時間、24時間、48時間曝露した後、RNA-seqで時系列に解析した。Pi曝露30分以内にEgr1、Fos、Ier2などの即時初期応答遺伝子が最初に誘導され、24~48時間後には、EGFやMAPKシグナル、Dmp1、Spp1、Enpp1などの骨形成遺伝子の発現が増加する後期反応が見られた。一方でFGFR1またはERKシグナルを阻害すると、Piに対する下流の応答が阻害されることを確認した。これらの応答はCaの存在に依存しており、calciprotein particlesがPi応答経路の重要なメディエーターであること、イオン輸送、GPCRシグナル、MAPキナーゼシグナルなどが関与していることが推測された。

Pi恒常性維持に関与する細胞内のシグナルを詳細に検証しており、今回の知見を手掛かりにin vivoや臨床検体の解析を統合し更なる知見が得られることを期待したい。