日本骨代謝学会

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ECTS 2022 レポート
木下 英幸(千葉県がんセンター)

紹介演題 [1]
Zoledronate in combination with chemotherapy and surgery: Friend or foe in patients with osteosarcoma? A systematic Review and Meta-Analysis

キーワード

ゾレドロン酸,骨肉腫,化学療法

研究グループ

Andrea Christou et al.

  • European University of Cyprus, Nicosia, Cyprus
サマリー&コメント

骨肉腫は原発悪性骨腫瘍では最多であり、治療は広範切除および周術期抗がん剤となる。一方、ゾレドロン酸は骨粗鬆症に用いられるビスフォスフォネート製剤の一種であり、抗腫瘍効果も報告されていることから、原発骨腫瘍や転移性骨腫瘍にも用いられる。しかし骨肉腫治療における標準化学療法とゾレドロン酸の併用療法の効果は報告されていない。筆者らは骨肉腫患者におけるこれら薬剤併用の効果をシステマティック・レビューおよびメタアナリシスにて評価した。データベースより抽出した152の報告からスクリーニングを行い最終的に2つのメタアナリシスを対象とした。解析より、手術および他剤化学療法とゾレドロン酸の併用は骨肉腫患者のevent-free survivalを改善せず、むしろ生存率を低下および副作用のイベントを増加させた。これらのことから筆者らは骨肉腫患者にゾレドロン酸の併用は推奨されないと結論づけている。

本邦でも、ゾレドロン酸とデノスマブ、いわゆる骨修飾薬(Bone-Modifying Agent; BMA)は転移性骨腫瘍に投与することで骨関連事象(skeletal related events; SRE)を抑制することから、積極的に用いられている。しかし骨肉腫に対しては広範切除とともに周術期化学療法(MAP療法や大量MTX療法など)が用いられるが、BMAは用いられない。海外では併用療法の報告はこれまであるが、本研究では有効性は否定された。ただ、対象論文が少ないことから今後さらなる検討が必要と考える。

紹介演題 [2]
Osteoblast-derived extracellular vesicles influence MNNG/HOS osteosarcoma cells, reducing their migration and affecting their metabolic activity and redox balance

キーワード

骨肉腫, 遊走, レドックスバランス

研究グループ

A Ucci et al.

  • University of L'Aquila, Italy
サマリー&コメント

骨肉腫は、とくに小児やAYA (Adolescent and Young Adult; 思春期・若年成人)世代に多く、肺転移を起こすと生存率が極端に低下する。骨肉腫の転移を考える上で、細胞外小胞(Extracellular Vesicles; EV)は重要な概念である。EVは脂質二重層のナノ粒子でできており、細胞間クロストークにおいて機能しており、がん領域においても注目を集めている。筆者らはこれまでにヒト骨肉腫細胞株 (MNNG/HOS)由来のEVが骨芽細胞を含めた骨細胞に影響を及ぼすことを示した。今回、骨芽細胞由来EV (OB-EV)が骨肉腫細胞の成長や細胞死に影響を及ぼすかについて検討した。筆者らは本研究においてOB-EVが骨芽細胞-骨肉腫細胞のクロストークに直接的影響を及ぼすことを示した。すなわち①OB-EVがin vitroにおいてMNNG/HOSの代謝活性、生存や遊走・浸潤を抑制すること、②OB-EVがMNNG/HOS内の酸化型グルタチオンの増加させることにより、糖化促進スイッチを誘導すること、③OB-EVによる細胞内微小環境の変化が骨肉腫の侵襲性に影響を与える可能性、について示した。

私自身の本学会の発表内容も「骨肉腫におけるレドックス制御の関与および酸化ストレス誘導剤が骨肉腫の局所増大や肺転移を抑制する」といった内容であった。本研究で筆者らが注目したレドックス制御はグルタチオンおよび代謝活性であり、私の研究課題であったチオレドキシンとは異なるメカニズムであり、今後の研究内容の幅が広がるとともに興味深く拝見した。また、私の発表では肺転移の詳細なメカニズムは検討できていなかったので、このOB-EVの概念は非常に参考になった。