日本骨代謝学会

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ASBMR 2022 レポート
塚本 翔(埼玉医科大学医学部ゲノム基礎医学)

紹介演題 [1]
Single Cell Sequencing Analysis and Lineage Tracing Identifies a Population of Cells in the Growth Plate that Rapidly Expands in Response to Sost Antibody Treatment

キーワード

Sclerostin, Single cell RNA-seq, Growth Plate

研究グループ

Aimy Sebastian, Nicholas Hum, Deepa Murugesh, Naiomy Rios-Arce, Cesar Morfin, Stephen Wilson, Sarah Hatsell, Aris Economides, Alexander Robling, Gabriela Loots.

サマリー&コメント

Sclerostinは、Wntシグナルを阻害する分子で、骨細胞が分泌する。Sclerostin中和抗体によって、骨芽細胞のWntシグナルが活性化し、骨形成が亢進することが知られている。本演題では、Sclerostin中和抗体を投与したマウスの長管骨から細胞を分取し、中和抗体投与によって、変化が生じる細胞群をscRNA-seqで検討している。Wntシグナルが活性化したSclerostin抗体投与マウスでは、軟骨細胞と骨芽細胞と考えられる細胞群の細胞数が増加していた。さらに、軟骨細胞に特異的に発現するⅡ型コラーゲンをトレースするAi9; Col2-CreERマウスを使ったFACSおよび組織解析から、Sclerostin抗体投与によって、成長板と海綿骨の境界領域に存在するⅡ型コラーゲン陽性細胞が増加していることを見出した。演者らは、本結果から、Sclerostin抗体投与によって、Ⅱ型コラーゲン陽性の骨芽細胞前駆細胞が増加し、骨形成が亢進している可能性を示唆した。今後、ヒトにおけるSclerostin中和抗体の標的細胞についても詳細が明らかになっていくのではないかと考えられる。一方、ヒトでは、成長に伴い、成長板が閉鎖することが知られており、マウスとヒトの違いについての考察も大変興味深い。これまでもWntシグナルと骨芽細胞前駆細胞に関連した多くの研究報告があるが、今後も新たな解析手法とオリジナリティーのある研究デザインによって新たな知見が生まれることが期待される。

紹介演題 [2]
Reducing Smad2/3 Signaling by Deleting Alk4 in Skeletal Progenitors Increases Bone in Adult Mice

キーワード

Activin A, BMPs, Osteoblast

研究グループ

David Maridas, Emily Van Doren, Shek Man Chim, Laura Gamer, Vicki Rosen

サマリー&コメント

Activin Aは、TGF-βファミリーの一員で、ALK4受容体を介して、転写因子Smad2/3を活性化する。一方、同じTGF-βファミリーのBMPsは、別のALK受容体に結合し、Smad1/5を活性化することが知られている。演者らは、加齢マウスの血中でActivin Aが増加していることを見出し、本演題では、ALK4を欠失したマウスを樹立し骨組織の詳細な解析を行なった。樹立したALK4 floxed x Prx1-Creマウスは、骨芽細胞数が増加し、骨量が増えていた。また、初代骨芽細胞で、ALK4を欠失させると、活性化したSmad2/3が減少し、骨芽細胞分化が亢進した。さらに、Activin AもしくはBMP2刺激した間葉系幹細胞の細胞株でRNA-Seqを行うと、Activin A刺激で減少した遺伝子群と、BMP2刺激で増加した遺伝子群の多くが共通していることを見出した。本結果から、 Activin A-Smad2/3とBMP2-Smad1/5は、標的遺伝子の転写を競合し、骨芽細胞の活性化を制御している可能性が示唆された。これまで、TGF-βfamilyのシグナル伝達は、Smad1/5経路とSmad2/3経路に共通して使われるリガンドや受容体の競合によって、両者の間で複雑なシグナル伝達が行われている可能性が示唆されてきた。今後もin vivoの表現型を説明する新たなTGF-βファミリーのシグナル伝達機構が明らかになっていくのではないかと考える。