日本骨代謝学会

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ASBMR 2022 レポート
中村 郁哉(公立千歳科学技術大学大学院理工学研究科)

2022年9月9日~12日にアメリカ テキサス州オースティンで開催されたASBMR 2022 Annual Meeting(米国骨代謝会議)に参加し,“Administration of teriparatide increases collagen fiber orientation in rat femoral cortical bone with chronic kidney disease”という演題で発表いたしました.ASBMRでは毎年,基礎から臨床まで多岐にわたる演題が発表されておりますが,本年は我々が研究テーマとしている赤外分光法やラマン分光法による骨質評価に加えて,骨と他の組織の相互作用(bone interactions with other tissue)といったキーワードに着目しました.その中でも強く印象に残った演題をご紹介させていただきます.

紹介演題 [1]
Type-1 Diabetes and Intrinsic Material Properties

キーワード

Bone quality, Diabetes, Raman spectroscopy, Nanoindentation

研究グループ

Wen Qian[1], Roman Schmidt[1], Joseph Turner[1], Sonja Gamsjaeger[2], Eleftherios Paschalis[2], Sue Bare[3], Laura Graeff-Armas[4], Joan Lappe[3], Robert Recker[3] and Mohammed Akhter[3]

  • [1] University of Nebraska Lincoln, United States
  • [2] Ludwig Boltzmann Institute of Osteology, Austria
  • [3] Creighton University, United States
  • [4] University of Nebraska Medical Center, United States
サマリー&コメント

Ⅰ型糖尿病では骨密度では捉えきれない高い骨折リスクを示す.演者らは,Ⅰ型糖尿病による骨脆弱性の増大には骨質(構造および材質特性)の劣化が強く関連していると考え,ラマン分光法ならびナノインデンテーションを用いてⅠ型糖尿病患者の腸骨における介在層板およびセメント線の骨質評価を行なった.Ⅰ型糖尿病患者の腸骨では骨密度に関係なく介在層板,セメント線ともにナノインデンテーション硬さ,弾性率の上昇が認められたことから,Ⅰ型糖尿病では硬くて脆い骨となり,結果として骨折リスクが上昇することが示唆された.

この研究は,前年度の骨ルポにてご紹介いたしました糖尿病患者腸骨の骨質評価の続報でございます.前報で示されました①カルボキシメチルリジン(CML)の蓄積,②ヒドロキシプロリン(Hyp)/プロリン(Pro)比の上昇,③結晶化度の上昇 はいずれも骨の老化や劣化に伴い上昇することが想定し得る因子のため,この度のナノインデンテーションの結果もより深く理解することが出来ました.

紹介演題 [2]
The effect of alendronate treatment on bone and muscle atrophy during mechanical unloading in mice

キーワード

Bone, Muscle, Biological crosstalk

研究グループ

Sophie Orr, Suraj Pathak, Henning Langer, Keith Baar, Blaine Christiansen

  • University of California, Davis, United States
サマリー&コメント

宇宙飛行や寝たきりの条件下では,筋肉と骨の両方の組織を委縮させる.骨と筋肉の萎縮は,運動や除荷時の力と伝達の相互作用ということで一緒に研究されることが多い一方,これらの組織の間の非機械的(生物学的)クロストークは明らかとなっていない.廃用時の破骨細胞は既存の骨組織を破壊し、TGF-βやRANKLのようなオステオカインを放出し,それぞれの経路で萎縮を開始する.演者らは,力学的な刺激の減少による影響とは別に,オステオカインが筋萎縮にどのように寄与しているかを明らかにすることで、骨と筋肉の間の生物学的クロストークを定義することが出来ると考え,年齢の異なる後肢除荷(HLU)マウスに骨吸収抑制剤アレンドロネート(ALN)を投与し,その骨および筋肉の評価を行なった.その結果,ALN投与により大腿骨の骨幹と骨幹端の骨量が維持され,HLUにより後肢の筋量と体重が減少することを確認した.加えて,中年マウスにALNを投与すると、HLU群と比較して前脛骨筋の最大筋力が増加することが示された.

本演題は組織間の相互作用に関しての報告であり,大変印象に残ったのでご紹介いたしました.機械的強度や質を介した組織間の相互作用についても興味がもたれます.