日本骨代謝学会

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ASBMR 2022 レポート
宮原 潤也(東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座)

紹介演題 [1]
The Gut Microbiome restrains melanoma bone growth by promoting the homing of intestinal NK and Th1 cells to the bone marrow

キーワード

腸内細菌叢、骨転移

研究グループ

Subhashis Pal[1], Daniel S. Perrien[1], Tetsuya Yumoto[1], Roberta Faccio[2], Neale Weitzmann[1], Roberto Pacifici[1]

  • [1] Emory University
  • [2] Washington University
サマリー&コメント

溶骨性骨転移は悪性黒色腫の合併症の一つである。抗菌薬は担癌患者で頻用されるが腸内細菌叢に作用し免疫応答を変化させる。そこで演者らは抗菌薬投与による腸内細菌叢の枯渇が免疫応答を変化させ、骨転移を促進すると仮説を立てた。

悪性黒色腫細胞株B16-F10をマウスの心臓内あるいは脛骨髄腔内に投与し、広域抗菌薬での治療により腸内細菌叢が枯渇したマウスは骨転移が加速することを示した。さらに小腸パイエル板と腫瘍病巣内骨髄細胞のフローサイトメトリーによる解析から、腸内細菌叢の枯渇が、悪性黒色腫により誘導される腸管のNK細胞・Th1細胞の腫瘍病巣への遊走を抑止することを示した。続いて演者らはKaedeマウス(紫外線照射で蛍光が緑から赤に変化する、光変換蛍光蛋白質を発現するトランスジェニックマウス)を用いて腸管免疫細胞のトラッキングを行い、抗菌薬投与で腸管のNK細胞・Th1細胞の腫瘍病巣への遊走が最大で1/8に減少することを示した。最後に腸管のNL細胞・Th1細胞が腫瘍病巣に遊走するメカニズムとしてCXCL9/CXCR3 axisに注目し、各種阻害剤の投与により抗菌薬投与の際と同様に転移腫瘍病巣の増大が引き起こされることを示した。

腸管由来のNK細胞・Th1細胞が悪性黒色腫の骨転移を抑制していることを示した報告。腸管細菌叢・免疫系の賦活化によって骨転移を抑制することが今後示されるか注目したい。

紹介演題 [2]
Bone targeted bisphosphonate-conjugated antibiotics to eradicate Staphylococcus aureus biofilm within the osteocyte lacuno-canalicular network of infected cortical bone in chronic osteomyelitis.

キーワード

慢性骨髄炎、ビスフォスフォネート

研究グループ

Frank H Ebetino[1], Chao Xie[2], Shuting Sun[1], Karen L de Mesy Bentley[3], Thomas Xue[2], Youliang Ren[2], Motoo Saito[2], Philip Cherian[1], Jeffrey D Neighbors[1], Edward M Schwarz[2].

  • [1] BioVinc, LLC
  • [2] University of Rochester
サマリー&コメント

人工関節置換術後の感染は1%程度だが再発率は15-40%と報告されており、その一因としてosteocyteのlacuna-canalicular network(OLCN)における黄色ブドウ球菌のColonizationが、走査型電子顕微鏡による研究で明らかになってきている。演者らはビスフォスフォネートあるいはハイドロキシビスフォスフォネートに抗生剤をconjugateした試薬を作成し、MRSAによるインプラント感染・骨髄炎を惹起したC57/BL6マウスに投与し、両者がバイオフィルムの確立された慢性骨髄炎に対して従来の抗生剤投与と比較して有意にMRSAの増殖を抑えたこと、またビスフォスフォネートをconjugateした試薬においてはインプラント周囲の溶骨性変化が有意に抑制されたことを各種培養実験、組織学的評価、μCT、走査型電子顕微鏡によって示した。

骨粗鬆症の治療薬としては近年、各種モノクローナル抗体が注目を浴びているが、臨床的に治療に難渋する骨髄炎治療において、ビスフォスフォネートが新規治療の鍵となる可能性を示した報告。大型動物での検証に進んでいるとのことで今後の臨床応用が待たれる。