日本骨代謝学会

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IFMRS 2022 レポート
森 理紗子(立命館大学大学院食マネジメント研究科)

紹介演題 [1]
Dual beneficial effects on bone and whole-body glucose homeostasis by genetic or pharmacological activation of the hypoxia signaling pathway

キーワード

HIF、骨代謝、グルコース代謝

研究グループ

Roger Valle Tenney[1],Seppe Melis[1],Karen De Samblancx[1],Tom Dehaemers[1],Ruben Cardoen[1],Elena Nefyodova[1],Bart Van der Schueren[2],Roman Vangoitsenhoven[2],Sylvain Provot[3],Christa Maes[1].

  • [1] Laboratory of Skeletal Cell Biology and Physiology (SCEBP), Skeletal Biology and Engineering Research Center (SBE), Department of Development and Regeneration, KU Leuven, Leuven, Belgium
  • [2] Department of Endocrinology, University Hospitals Leuven, and Department of Chronic Diseases and Metabolism, K Leuven, Leuven, Belgium
  • [3] INSERM, U1132, Université Paris Diderot, Hôpital Lariboisière, Paris, France.
サマリー&コメント

 肥満や糖尿病は、グルコース恒常性障害、骨量の変化、骨の血管新生障害を引き起こし、骨質を低下させる。これらは低酸素誘導因子(HIF)シグナルの影響を受けるため、HIF経路の調節はⅡ型糖尿病における骨の健康と全身性エネルギー代謝を改善するための戦略となる可能性がある。本研究では、Ocn-Creドライバーを用いてVhlコンディショナルノックアウト(cKO)マウスを作出し、成熟骨芽細胞におけるHIFシグナルの活性化が、骨量や血管量、全身のグルコース恒常性に及ぼす影響を検討した。Vhl cKOマウスは海綿骨密度や骨中のグルコーストランスポーターならびに解糖系酵素のmRNA発現が増加し、骨でのグルコース利用促進が示唆された。さらに、グルコース負荷試験(GTT)の結果も良好であり、末梢脂肪がコントロールマウスよりも有意に少なかった。これらの結果により骨芽細胞のHIFシグナルの活性化が骨量とエネルギー代謝の両方を改善することが強調されたため、次に、食事誘発性肥満と糖尿病発症時の薬理学的なHIFの活性化が骨と代謝に与える影響を評価した。野生型マウスに高脂肪食(HFD)を16週間与え、HFD開始8週目からHIF活性化化合物であるRoxadustat(FG-4592)を腹腔内投与した。FG-4592の投与は、HFDによる体重増加や、耐糖能異常、末梢脂肪の蓄積を抑制した。これらの結果から、骨芽細胞を介した代謝器官としての骨の役割を強調し、薬理学的なHIF活性化がマウスの食事誘発性肥満および糖尿病を予防することを明らかにした。

 骨格筋の糖代謝機能の亢進により、糖尿病や肥満が改善するという報告は多く存在しますが、骨芽細胞のHIF活性化によっても全身の糖代謝を改善できるということが非常に興味深いと感じました。生活習慣病の予防策・改善策の提案に向けたエビデンスの構築と、研究のさらなる発展に期待したいです。

紹介演題 [2]
Sarcopenia and its associations with fracture risk in Swedish older women from the Sahlgrenska university hospital prospective evaluation of risk of bone fractures-(superb) study

キーワード

サルコペニア、骨折リスク

研究グループ

Anoohya Gandham*(1,2), Liesbeth Vandenput(1,3), Helena Johansson(1,4), Lisa Johansson(3), Henrik Litsne(3), Kristian Axelsson(3), Mattias Lorentzon(1,5)

  • [1] Mary Mackillop Institute for Health Research, Australian Catholic University, Victoria, Australia
  • [2] Department of Medicine, School of Clinical Sciences at Monash Health, Monash University, Clayton, Victoria, Australia
  • [3] Centre for Bone and Arthritis Research, Institute of Medicine, University of Gothenburg, Sweden
  • [4] Centre for Metabolic Bone Diseases, University of Sheffield, Sheffield, UK; 5: Geriatric Medicine, Institute of Medicine, Sahlgrenska Academy, Sahlgrenska University Hospital, Mölndal, Sweden
サマリー&コメント

 サルコペニアは、加齢に伴う骨格筋量および筋機能の低下と定義されており、高齢者に多くみられる疾患である。人口の高齢化とサルコペニアの蔓延により、骨折リスクが大幅に増加すると予想されているが、統一された定義が存在しないため、臨床医による診断と治療が困難になっている。本研究の目的は、スウェーデンの高齢女性集団におけるサルコペニアの有病率を調査し、様々なサルコペニア定義の骨折リスクに対する予測値を明らかにすることであった。75~80歳の高齢女性3,028人を対象とし、サルコペニアの定義について、Sarcopenia Definitions and Outcomes Consortium(SDOC)、改訂版European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP2)、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)の3つを用いた。大腿骨頚部Tスコアを二重エネルギーX線吸収法により求め、X線検査または医療記録によって確認された骨折は主要骨粗鬆症性骨折(MOF)および股関節骨折に分類し、死亡を死亡診断書により確認した。年齢と骨折リスク評価(FRAX)変数で調整したCox回帰分析を行ったところ、サルコペニア有病率はEWGSOP2による定義で最も高く、次いでAWGS、SDOCの順となった。交絡因子にて補正後、SDOCの定義でサルコペニアと診断された人は、死亡リスクが高くなったが、EWGSOP2の定義とAWGSでは死亡リスクに差は認められなかった。大腿骨頚部Tスコアを含む交絡因子で補正したところ、SDOC定義によるサルコペニアの人は、あらゆる骨折および MOFのリスクが増加した。一方で、股関節骨折やサルコペニアをEWGSOP2やAWGSで定義した場合には、骨折リスクは増加しなかった。SDOCによるサルコペニアは、骨折リスクと死亡リスクを予測する唯一の定義であり、サルコペニアの定義に身体能力および筋力の測定値を組み込むことが、スウェーデンの高齢女性集団における骨折予測を向上させ、有害健康転帰を軽減するために有益であると示唆された。

 日本においてもより高度な診断基準の確立に向けたエビデンスの構築が必要であると感じました。また、サルコペニア予防の重要性や意義を再認識するとともに、運動器機能に関する分野の発展に貢献できるような研究を続けていきたいと思いました。