日本骨代謝学会

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ASBMR 2023 レポート
金野 琢人(東京理科大学 大学院 薬学研究科 分子薬理学)

ポスター発表をしました。隣のポスターは、長崎大学の松下祐樹先生でした。テキサス大学の小野法明先生など多くの先生方ともディスカッション出来ました。

紹介演題 [1]
ERK Suppresses the Plasticity of Periosteal Skeletal Stem Cells

キーワード

骨膜、Erk、骨軟骨腫

研究グループ

Alisha Yallowitz1, Shawon Debnath2, Hwanhee Ho3, Michelle Cung3, Yeon-Suk Yang4, Jae Hyuck Shim4, Mattew Greenblatt5

  • 1, Weill Cornell Medicine, United States, 2, Weill Cornell Medicine, Cornell University, 3, Department of Pathology and Laboratory Medicine, Weil Cornell Medicine, United States, 4, UMASS Medicine School, United States, 5, Weill Cornell College, United States
サマリー&コメント

Ctsk陽性の骨膜幹細胞は通常、膜性骨化に寄与することが知られている。しかし、これら細胞は、骨折後には内軟骨性骨化を行うといった可塑性を持つことが見られているが、その可塑性の分子メカニズムは不明であった。本研究では、通常時には、骨内膜より骨膜の方でErk活性が高いことを発見し、このErk活性が骨膜細胞の内軟骨性骨化への可塑性を抑制していることが考えられた。そこでErk欠損(Mek1,2欠損)骨膜細胞について観察すると、内軟骨性骨化を起こすようになることが分かった。また、Erkを活性化させるとカルス形成が悪く、内軟骨性骨化能が低下していることも分かった。さらに、骨膜細胞でのErk抑制は、長管骨での骨軟骨腫様の腫瘤を発症した。これについて、骨軟骨腫では、骨折がない場合でも、骨折時と同様に骨膜細胞が内軟骨性骨化を起こすことが示唆された。  以上のことから、本研究は、骨膜幹細胞の可塑性に関する分子メカニズムの解明と、骨軟骨腫と骨折修復の意外な繋がりを発見した。

以前から気になっていた骨膜細胞が骨折時であれば、内軟骨性骨化を起こすようになる分子メカニズムが分かった。さらに骨膜細胞の内軟骨性骨化を介した腫瘤・骨軟骨腫形成の際は、Erkが下がることも興味深く、以前Natureに報告されたCtsk-Cre; Ptpn11fl/flも骨膜に軟骨腫を形成するが、ヘッジホッグシグナルの上昇とErkシグナルの抑制が見られており、今回の研究結果と一致する。骨膜幹細胞とErkに関する興味深い知見であり、さらなる骨膜細胞の理解に加え、骨軟骨腫治療への応用についても期待される。

紹介演題 [2]
The Hif-1α/PLOD2 axis regulates collagen cross-linking and mesenchymal progenitor cell fate responsible for traumatic heterotopic ossification

キーワード

異所性骨化、コラーゲン、Hif1α

研究グループ

Heeseog Kang1, Amy L. Strong2, Yuxiao Sun1, Alec C. Bancroft1, Ji Hye Choi1, Conan Juan1, Lei Guo3, Juhoon Lee4, Robert N Kent Ⅲ5, Daid Hudson6, Brendon M. Baker5, Kevin Dalby4, Lin Xu3, Benjamin Levi1

  • 1, Center for organogenesis and Trauma, Department of Surgery, University of Texas Southwestern, United States, 2, Section of Plastic Surgery, Department of Surgery, University of Michigan, United States, 3, Quantitative Biomedical Research Center, Department of Population and Data Sciences, University of Texas Southwestern, United States, 4, Division of Chemical Biology and Medicinal Chemistry, College of Pharmacy, University of Texas at Austin, United States, 5, Biological Engineering, University of Michigan, United States, 6, Department of Orthopaedics and Sports Medicine, University of Washington, United States
サマリー&コメント

異所性骨化(HO)は腱などの軟組織に炎症を伴って発症する。組織における炎症反応は低酸素状態を引き起こし、細胞増殖と生存、代謝などを調節しHOを進行させる。以前、発表者の研究グループは、低酸素誘導因子Hif1αを欠損させるとHO形成が抑制されることを報告したが、そのメカニズムは良く分かっていなかった。

異所性骨化をBurn/Tenotomy(B/T)で誘導するとコラーゲン架橋に関与するリシンオキシダーゼLox familyがすべて上昇した。Hif1αの上昇に伴ってClo2a1, Loxの上昇も見られた。先行研究ではHoxa11-CreERT2を用いたHif1a欠損マウスにおいてHO形成が減少するが、そこでのPLOD2, Loxの減少に加えGlut2の減少が見られた。反対にVhl欠損でHif1αを上昇させるとこれらを上昇させることが見られた。機械刺激の減少はHOを減少させることも同じ研究グループが発表しており、この場合もHif1α, PLOD2は減少し、HO形成を抑制した。最後にLox阻害剤を投与し、HO形成を抑制することも示した。 以上のことからHif1αはコラーゲン架橋を制御することで、HOの発症に寄与することが明らかとなった。

ギブス固定などの機械刺激抑制もHOを抑制することがJ Clin Invest.に報告されているが、この場合もHif1αが減少していることは興味深かった。Benjamin Levi研究室はHOを主に研究されており、コラーゲン配向・Anisotropyなどもよく見られている印象がある。コラーゲンを標的としたHO治療といった発展が期待される。