日本骨代謝学会

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ASBMR 2023 レポート
鍋島 貴行(産業医科大学 整形外科)

posterの前で記念撮影

紹介演題 [1]
The Association of SGLT2-Is Versus DPP4-Is as Add-on to Metformin and Fracture Risk in Patients With Type 2 Diabetes Mellitus

キーワード

糖尿病、SGLT阻害薬、骨折リスク

研究グループ

Veerle van Hulten*, 1Department of Clinical Pharmacy and Toxicology, Maastricht University Medical Centre+ (MUMC+), Netherlands | Johanna Driessen, , Netherlands | Jakob Starup-Linde, Department of Endocrinology and Internal Medicine, Aarhus University Hospital, Denmark | Zheer Al-Mashhadi, Steno Diabetes Center Aarhus, Aarhus University Hospital, Denmark | Rikke Viggers, Steno Diabetes Center North Denmark, Denmark | Olaf Klungel, Division of Pharmacoepidemiology & Clinical Pharmacology, Utrecht Institute for Pharmaceutical Sciences, Utrecht University, Netherlands | Patrick Souverein, Division of Pharmacoepidemiology & Clinical Pharmacology, Utrecht Institute for Pharmaceutical Sciences, Utrecht University, Netherlands | Peter Vestergaard, Steno Diabetes Center North Denmark, Denmark | Coen Stehouwer, Department of Internal Medicine, Cardiovascular Research Institute Maastricht, Maastricht University Medical Centre+ (MUMC+), Netherlands | Joop Van Den Bergh, VieCuri MC Noord-Limburg and Maastricht UMC, Netherlands

サマリー

背景: T2Dは骨折リスクの増加と関連していることが知られている。さらに,比較的新しい糖低下薬であるSGLT2阻害薬(SGLT-I)の使用は骨折リスクの増加との関連が示唆されている。

目的:従来のメトホルミン治療に新規に追加された薬剤で、SGLT2-I治療群とDPP4-I治療群で骨折または主要骨粗鬆症性骨折(MOF)のリスクと関連するかどうかを検討する。

方法:Clinical Practice Research Datalink(CPRD)のAurumデータベースを用いたコホート研究を行った。2013年1月1日~2020年6月30日の間にDPP4-IまたはSGLT2-Iをメトホルミンに追加して初めて処方された18歳以上の全患者を抽出した。SGLT2-Iから開始した患者はDPP4-Iから開始した患者とpropensity scoreで調整した(最大1:3)。propensity scoreは性別、年齢、BMI、合併症、薬物療法、ライフスタイル因子に基づいて算出された。Cox比例ハザードモデルを用いて、SGLT2-Iの使用とDPP4-Iの使用を比較し、骨折のリスクを推定した。二次解析として、主要な骨粗鬆症性骨折(MOF)のリスクを推定した。

結果:SGLT2-I使用者13,807例(55.4±10.6歳、女性36.7%)をDPP4-I使用者28,524例(55.4±8.0歳、女性36.4%)とマッチさせた。現在SGLT2-Iを使用している場合のあらゆる骨折のリスクは、現在DPP4-Iを使用している場合と同様であり(調整ハザード比(adjusted HR)1.09;95%CI:0.91-1.31)、MOFのリスク(adjusted HR 0.89;95%CI:0.64-1.22)、個々のMOF部位のいずれかにおける骨折のリスクも同様であった。さらに、SGLT2-Iの使用期間(最長使用期間>811日)、個々のSGLT2-I薬剤、性・年齢による層別化後も関連は認められなかった。すべての解析をCPRD GOLDで繰り返したところ、同様の結果が得られた。

結論: SGLT2-Iの使用は、DPP4-Iの使用と比較して、あらゆる骨折、MOF、個々のMOF部位における骨折のリスクとは関連していなかった。

コメント

SGLT2-Iは2型糖尿病のみならず、心不全患者など臨床現場で広く使用されているが、その作用部位が近位尿細管であるため、Caやリン酸のホメオスターシスに影響を及ぼし、骨密度に影響する可能性が示唆されているが、実際に骨折リスクを上げるか否かについてはcontroversialである。今回の研究では比較的大きな規模でのコホート調査で、従来の薬剤と比較しても骨折のリスク上昇はなかったと報告された。疾患そのもののみならず、その治療薬そのものによる骨折への影響についてまでは、日常臨床でも考慮できていない側面がある。こういった研究の結果を踏まえ、「どのような基礎疾患があるか」だけでなく、「どのような治療をされているか」にも配慮しながら日々の診療に努める必要があるということを再認識することができた。

紹介演題 [2]
Long-term OPG:Fc Treatment with Discontinuation Lead to Elevated Microporosities in a Mouse Model Simulating Denosumab Treatment

キーワード

デノスマブ、リバウンド現象、骨微小孔

研究グループ

Johannes Krug*, University Medical Center Hamburg-Eppendorf, GER, Germany | Haniyeh Hemmatian, University of Melbourne, Department of Medicine-Austin Health, Australia | Albert Kim, Garvan Institute of Medical Research, Bone Microenvironment Group, Australia | Jad Zamerli, Garvan Institute of Medical Research, Bone Microenvironment Group, Australia | Annegreet Vlug, LUMC, Netherlands | Katharina Jähn-Rickert, University Medical Center Hamburg-Eppendorf, Germany | Bjoern Busse, University Medical Center Hamburg-Eppendorf, Germany | Michelle McDonald, Garvan Institute of Medical Research, Bone Microenvironment Group, Australia

サマリー

デノスマブ治療を受けた骨粗鬆症患者は、デノスマブ中止後に椎体脆弱性骨折の増加を伴うリバウンド性骨量減少を経験する。最近、高解像度の画像診断技術により、骨の力学的完全性の定量可能なマーカーとしての骨微小孔の重要性が強調されているが、デノスマブ投与中止後の骨脆弱性骨折に関連するリバウンド性骨量減少の構造的基盤はまだ十分に理解されていない。

本研究では、デノスマブ治療中止モデルマウスにおいて、分解能0.7μmのマイクロCTを用いて、骨細胞のラクナ孔や皮質骨脈管路ネットワークを含む骨微小多孔性を評価することを目的とした。オステオプロテジェリンFc(OPG:Fc、10mg/kg、週3回、n=6)またはビヒクル(n=6)をi)2週間(2+0週間)、ii)2週間および12週間投与中止(2+12週間)、iii)8週間および15週間投与中止(8+15週間)投与したマウスの脛骨近位部における骨微小多孔性を定量化した。

海綿骨では、ラクナ孔体積は2週間の投与では中止の有無にかかわらず有意な増大はみられなかったが、8週間の投与とその後の中止により、ラクナ体積の平均はビヒクルと比較して13.5%増大した(p=0.002)。両投与中止群とも骨細胞密度の上昇(2+12週:p=0.0529、8+15週:p=0.008の傾向)を示したが、2+0週群ではこの所見は認められなかった。皮質骨では、皮質の厚みは2+0週治療群で増加(p=0.006)した一方、両中断群で明らかに菲薄化(2+12週:p=0.024;8+15週:p=0.005)していた。皮質骨のラクナ特性はいずれの群でも変化しなかった。皮質骨脈管路の容積と数は、2+0週治療群および2+12週治療群では変化しなかったが、8+15週治療群では増加した(p=0.006およびp<0.001)。

結論として、モデルマウスでは、8週間のOPG:Fc投与+15週間の投与中止は、海綿骨及び皮質管の多孔性の上昇をもたらし、この結果は、投与中止の有無にかかわらず2週間の投与後には認められなかった。したがって、本研究は、機械的完全性を損なう骨組織の微小孔が、主に長期治療後のデノスマブ中止後の骨量減少と椎体骨折の再発の病態に関与している可能性を示している。

コメント

デノスマブは強力な骨吸収抑制薬であり、腎機能障害がある患者にも投与ができ、投与間隔も6ヶ月に1度であるため、患者の頻回の外来通院や服薬アドヒアランス上の問題が少ない事もあり、今日の骨粗鬆症の治療薬として頻用されている一方で、投与中止後の急激な骨量減少が問題となっている。私自身も臨床現場ではしばしば遭遇することがあったが、実際に骨組織でどのような現象が起こっているのか非常に興味があった。今回の研究では、その現象を可視化し、私個人として大変インパクトのあるものであった。

会場のVancouver Convention Centre

ガスタウンの蒸気時計台(左)、キャピラノ吊り橋(高さ:70m、全長:140m)