日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

骨ルポ

TOP > 骨ルポ > ASBMR 2023 > 三瓶 千怜

ASBMR 2023 レポート
三瓶 千怜(東京理科大学 大学院 薬学研究科 分子薬理学)

紹介演題 [1]
SIK2/SIK3 inhibitor increases cortical bone mass in a mouse model of CKD-MBD

キーワード

CKD-MBD、SIK阻害剤

研究グループ

Sung-Hee Yoon*, Marc Wein, et al.

  • Massachusetts General Hospital, United States
サマリー&コメント

慢性腎臓病(CKD)による腎機能の低下は、老廃物やミネラルの濾過不全を引き起こすことで、骨代謝代謝異常(CKD-MBD)を引き起こす。塩誘導性キナーゼ(SIK)は、PTH受容体シグナルの重要な下流メディエーターとして骨と腎臓で同定された。腎臓では、PTH受容体の活性化に伴うcAMP/PKAシグナルによってSIKが阻害されることで、Cyp27b1の発現が増加し、1, 25-ビタミンDの産生が増加する。骨では、SIK阻害によって骨リモデリングが刺激され、骨量が増加する。これらの先行研究から、SIKの阻害は、CKD-MBDにおける骨代謝を改善させると仮説を立てた。

そこで、演者らは、0.2%アデニン誘発性のCKDモデルマウスに選択的SIK2/SIK3阻害剤(SK-124)を投与し、その効果を調べた。アデニン誘発6週間後のCKDマウスでは、高リン酸血症や血清BUNの上昇、副甲状腺機能亢進症、血清CTXの上昇、海綿骨の厚さ及び皮質骨の厚さと面積の減少といった症状を呈した。一方、SK-124を毎日40 mg/kg投与することで、高リン血症や副甲状腺機能亢進症の緩和、血清P1NPの上昇が見られた。骨では海綿骨の厚さと皮質骨の厚さに改善が見られたことに加え、血清BUNやクレアチニン値、尿中タンパク質濃度から評価される腎機能も改善された。

これらの結果から、選択的なSIK2/SIK3阻害が、CKD-MBD患者の骨病態を改善することが示唆された。演者らのグループは、選択的SIK2/SIK3阻害剤SK-124の経口投与が骨形成を促進し、骨量を増加させることを報告しており(Sato et al, PNAS, 2022)、SK-124の他の骨減少モデルへの応用や長期的な副作用に関してさらなる研究が期待される。

紹介演題 [2]
RANKL and OPG mRNA are produced by separate cell populations in murine and human bone

キーワード

RANKL/OPG axis、PTH、RNAScope

研究グループ

Cecile Bustamante-Gomez*, Charles O'Brien, et al.

  • University of Arkansas for Medical Sciences, United States
サマリー&コメント

これまでに様々な細胞タイプがRANKLやOPGを供給することが明らかになってきた。しかしながら、様々な系統のCreが標的とする細胞型が不明確であることから、骨微小環境におけるRANKLやOPGの供給細胞を正確に同定することは困難であった。

そこで演者らは、RNAscope in situ hybridizationを用いて、マウスとヒトの骨切片でRANKLとOPGのmRNAを検出した。以前の研究結果と一貫し、RANKL mRNAはCxcl12-abundant-reticular (CAR) 細胞と一致する形態の骨髄細胞と骨細胞の亜集団で検出された。また、OPG mRNAは骨細胞で容易に検出されたが、骨芽細胞では小さな亜集団でのみ検出された。次に、PTHを単回投与して1、6、12、24時間後のmRNAレベルをRNAscopeで調べた。RANKL mRNAシグナルは、PTH投与後1時間でのみ骨表面近くのCAR細胞において増加した。また、OPGのmRNAレベルは、骨細胞においてPTH投与後1時間で強力に抑制され、6時間後までにベースラインに戻った。加えて、肥大軟骨細胞ではRANKL mRNA、成長板と関節の軟骨細胞ではOPG mRNAが検出された。

以上の結果から、PTHは、CAR細胞によるRANKL産生を促進するとともに、骨細胞によるOPG産生を抑制することで骨吸収を誘導することが示唆された。演者らはRANKLとOPGのmRNA発現をヒトとマウスの骨切片上で可視化したが、この実験に用いられたRNAscopeは今年のASBMRでよく見られた。mRNAやmiRNAを高感度に検出できるこの手法を用いた研究が、今後さらに進むと期待される。

紹介演題 [3]
Nfil3, A Novel PTH Target Involved in Bone development

キーワード

PTH、骨芽細胞、転写因子

研究グループ

Omar Al Rifai*, Rene St-Arnaud.

  • Shriners Hospitals for Children – Canada/ Development of Human Genetics, McGill University – Canada, Canada.
サマリー&コメント

演者らは、NACAに対するChIP-Seq解析から、PTHによって誘導され、NACAの標的となる転写因子としてNuclear factor interleukin-3-regulated (Nfil3) を同定した。しかしながら、PTHシグナルや生体内の骨の細胞におけるNFIL3の機能はほとんど知られていない。

PTH処理した骨芽細胞MC3T3-E1細胞と骨細胞IDG-SW3細胞においてChIP-Seq解析及びRNA-Seq解析を行ったところ、PTHによってNfil3の発現が5時間をピークに上昇すること、NFIL3がAlplや Col1a1、 Bglap、 Sp7及びRunx2といった骨芽細胞分化マーカーの近位プロモーターに結合し、その発現を制御することが示唆された。次に、成熟骨芽細胞及び骨細胞でのNFIL3の機能を調べるため、hOC-Cre;Nfil3fl/flマウスを作製した。µCT解析により、Nfil3欠損マウスの海綿骨が正常であるのに対し、皮質骨量や面積や直径、厚さは減少することが分かった。また、3点曲げ試験から、Nfil3欠損マウスでは長管骨の力学的特性が低下していることが示唆された。これらの結果と一貫して、骨芽細胞分化マーカー及び 骨細胞分化マーカーの発現低下や血清P1NPの低下が認められた。

本口演の結果は、PTHの標的であるNFIL3が骨芽細胞で遺伝子発現の活性化因子として機能し、生体内の骨代謝を制御することを示唆する。演者らは、Nfil3やUsp53といったPTH-NACA経路の標的遺伝子に着目しており、骨におけるPTH-NACA経路の機能がさらに明らかになることが期待される。

ASBMR 2023 Annual Meeting会場のVancouver Convention Centre