日本骨代謝学会

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ANZBMS 2023 レポート
吉本 哲也(広島大学病院 口腔先端治療開発学)

紹介演題 [1]
Reversing high bone porosity in NF1 bone using dietary supplements

キーワード

神経線維腫症1型(NF1), 骨減少, L-カルニチン+中鎖脂肪酸(MCFA)

研究グループ

Aaron Schindeler 1 2 , Alexandra K O'Dononhue 1 , Lucinda R Lee 1 , Charlotte Lee 1 , Emily R Vasiljevski 1, Craig F Munns 3 4 , David G Little 1

  • 1. Bioengineering & Molecular Medicine, The Children's Hospital at Westmead & the Westmead Institute for Medical Research, Westmead, NSW, Australia
    2. The Children's Hospital at Westmead Clinical School, University of Sydney, Sydney, NSW, Australia
    3. Child Health Research Centre, The University of Queensland, Brisbane, QLD, Australia
    4. Department of Endocrinology and Diabetes, Queensland Children’s Hospital, Brisbane, QLD, Australia
サマリー&コメント

神経線維腫症1型(NF1)は腫瘍感受性に関連する遺伝性疾患であるが、骨や筋肉にも重大な影響を及ぼすことが知られている。小児では、NF1は筋肉や骨サルコペニアや限局性骨形成異常と関連している。発表者らの先行研究で、NF1の筋肉症状(代謝異常と長鎖脂質の蓄積に伴う筋緊張低下)が、L-カルニチン+中鎖脂肪酸(MCFA)添加飼料による食事介入で回復されることが分かった。一方で、この食事介入がNF1の骨表現型に与える影響はまだ検討されていなかった。本演題では、Nf1flox/flox:Prx1-Creマウスに、上記の食事介入を8週間行うことで骨量を評価している。標準的な餌を与えられた対照群と比較して、L-カルニチン+MCFA補充により脂質代謝が変更されたマウスは、骨量、ミネラル密度、皮質厚さ、porosityは有意に改善された。

これまでにもL-カルニチンあるいは中鎖脂肪酸は、高齢者のサルコペニアや、栄養状態の改善に有用であることが臨床研究から明らかにされている。その一方で、この食事介入が、遺伝病である神経線維腫症の筋・骨減少を改善することは驚きである。Nf1遺伝子異常によるシグナル伝達経路とL-カルニチン+MCFAとの間の詳細な分子メカニズムは、未だ不明であり複雑であることが予想されるが、腸内細菌叢と個体の恒常性維持との関連性が多く解明されている中、更なる検討が期待される。

紹介演題 [2]
Acetylcholinesterase inhibitors reduce fracture and mortality risk in older patients with dementia syndromes

キーワード

認知症, 骨減少, 前向きコホート研究

研究グループ

Charles Inderjeeth 1 , Emma Boland 2 , Maxine Isbel 2 , Diren-Che Inderjeeth 2

  • 1. North Metropolitan Health and University of Western Australia, Nedlands, WA, Australia
    2. Sir Charles Gairdner Hospital, Perth, WA, Australia
サマリー&コメント

発表者らは、in vitroおよびin vivoマウスモデルにおいて、抗認知症薬のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が、破骨細胞の抑制と骨芽細胞の同化作用を通じて骨粗鬆症を改善することを報告している(Shangfu Li, et al. Journal of Cellular Physiology. 2023)。本研究では、この先行研究を基盤として、認知症患者の骨折リスクと死亡率におけるアセチルコリンエステラーゼの影響を前向きコホート研究により検討している。高齢者ケア、認知症クリニックにおいて、認知症患者を4年間追跡調査し、新規骨折の発生率と死亡を評価した。主な分析項目は、ベースライン時の人口統計と危険因子、認知症の診断、骨粗鬆症と骨折の有病率、転倒リスク、認知症治療薬、骨粗鬆症治療薬、フォローアップ後の骨折と死亡の発生率としている。744人の患者で、ベースライン時の59%が女性、平均年齢は81歳であった。21%に股関節骨折の既往があり、56%に認知症があり、113人(15.2%)が研究開始時に認知症治療を受けていた。4年間の年次フォローアップの間に137人(18%)が新たな骨折を報告した(一部は多発性および股関節)。全死亡率は267/744(36%)であった。認知症患者では死亡率が高く(180/415 vs 87/329)、骨折が多い傾向がみられた(73/415 vs 64/329)。この結果から 認知症患者は骨折の再発と死亡のリスクが高いとしている。一方で、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬による認知症の治療は、すべての骨折のリスクを減少させることが明らかになり、この臨床所見は、発表者らが発表したコリンエステラーゼ阻害薬がバイオマーカーに有効であることを確認した結果と一致した。

本研究は、発表者らの基礎研究を実際の臨床応用に昇華させたものであり、一連の仕事は見習うべき姿勢である。認知症患者が有する他疾患の既往歴については言及されていなかったことから、骨折率また死亡率が高い要因は、認知症自体以外の他の因子も存在するが、抗認知症薬のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が骨粗鬆症を改善するという発表者らの先行研究から直接影響があると考えているのだろう。いずれにしても、認知症に対する適切な治療を行うことで、QoLを向上させる本研究結果は、社会に大きく貢献するものであると考える。