日本骨代謝学会

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ANZBMS 2023 レポート
山家 新勢(広島大学 大学院医系科学研究科 生体分子機能学)

紹介演題 [1]
Single-cell RNA sequencing: unravelling the bone one cell at a time

キーワード

骨密度, 細胞のheterogeneity, Single cell RNAseq

研究グループ

Ryan C Chai 1 2 , Mischa Lundberg 3 4 5 , Monika Frysz 6 , J.H. Duncan Bassett 7 , Graham R Williams 7 , Peter I Croucher 1 2 , John P Kemp 5 6

  • 1. Bone Biology, Garvan Institute of Medical Research, Sydney, NSW, Australia
    2. School of Clinical Medicine, Faculty of Medicine, University of New South Wales, Sydney, NSW, Australia
    3. The University of Queensland Diamantina Institute, The University of Queensland, Woolloongabba, QLD, Australia
    4. Faculty of Medicine, The University of Queensland, Brisbane, QLD, Australia
    5. Mater Research Institute, University of Queensland, Translational Research Institute, Woolloongabba, QLD, Australia
    6. Musculoskeletal Research Unit, Bristol Medical School, University of Bristol, Bristol, United Kingdom
    7. Molecular Endocrinology Laboratory, Department of Medicine, Imperial College London, London, UK
サマリー&コメント

骨は複雑な組織であり、部位ごとに多様なheterogeneityを有する細胞が混在している。骨内膜は骨量を調整・維持する骨リモデリングに寄与している部位であり、骨の恒常性や疾患に関わる重要な機能を有するが、骨内膜を構成する具体的な細胞集団については不明な点が多い。本紹介演題では、マウス・ヒトの両方の骨に対してSingle cell RNAseqを行い、その結果とヒトのbone mineral density(BMD)に関する遺伝学的解析結果とを対応させて、 BMDに関連する遺伝子が骨芽細胞・軟骨細胞・血管細胞に多く発現していることを明らかした。さらに、BMD関連遺伝子として同定されたSLC9A3R2の欠失マウスでは、海綿骨量の減少が観察された。本研究によって、骨内膜に存在する骨内在細胞や血管細胞などのcell typeが同定でき、それらの細胞で発現するBMD決定遺伝子が、BMDの異常を伴うmonogenicまたはpolygenicな骨疾患に影響している可能性が示唆された。さらに、本解析結果が骨関連疾患の患者中心の治療(patient-centered therapeutics)における治療標的遺伝子の優先順位の決定にも寄与することが示された。

本紹介演題は、Single cell RNAseqを用いて骨内膜を構成する細胞のheterogeneityを示した上で、実際にBMDに関するヒトの遺伝学的解析結果と組み合わせたり、候補遺伝子の欠失マウスを用いてその遺伝子機能を検証したりしており、cell typeと発現遺伝子とヒト疾患とが密に関連した解析が行われており関心が湧いた。骨内膜を構成し、BMDに関与する細胞集団の同定や今後のオーダーメイド医療への展開を感じる興味深い内容であった。

紹介演題 [2]
Engineering cell and animal models of dominant-negative osteogenesis imperfecta using CRISPR

キーワード

骨粗鬆症, CRISPR, 細胞・動物モデル

研究グループ

Christal K-Y Au-Yeung 1 2 3 , Alexandra K O'Donohue 1 2 , Lucinda R Lee 1 2 3 , Samantha Ginn 3 4 , Aaron Schindeler 1 2 3

  • 1. Bioengineering and Molecular Medicine Laboratory, Westmead Institute for Medical Research, Sydney, NSW, Australia
    2. Kids Research, Children's Hospital at Westmead (CHW), Sydney, NSW, Australia
    3. The University of Sydney, Sydney, NSW, Australia
    4. Gene Therapy Research Unit, Childrens Medical Research Institute (CMRI), Sydney, NSW, Australia
サマリー&コメント

骨粗鬆症(OI)では骨強度が低下し、骨折のリスクが上昇する。OIの発症に関連する遺伝子として、多くの遺伝子が報告されており、そのなかでOIの85%-90%の症例はCOL1A1とCOL2A1の変異に起因している。本紹介演題では、実際のOIの患者に変異として、COL1A1の20塩基欠失が起こり、I型コラーゲン鎖のC末端側のプロペプチドでreadthroughが起こっていることが報告された。この変異は遺伝子治療の標的候補となるが、その前臨床試験として確かな細胞・動物モデルでの検証が求められている。そこで、CRISPRを用いたゲノム編集技術によって、HEK293T細胞でその20塩基を欠失させた細胞を作製した。さらに、CRISPRを用いて、同様に20塩基を欠失したモデルマウスを樹立した。作製したマウスは、ホモ変異体で致死となったため、ヘテロ欠失条件下でマイクロCT解析を行った。その結果、海綿骨BV/TVや皮質骨の厚みがヘテロ欠失マウスの雌雄両方で減少していた。また、予測的骨強度は減少しており、実際に機械試験でもbone strengthの低下が確認された。このことから、これらの20塩基が欠失したモデルは、I型コラーゲンのC末端側のプロペプチド変異におけるOIの病態解明を可能にするとともに、CRISPRを使用した遺伝子治療のin vitro・in vivo試験のためのプラットフォームとしても機能することが期待できる。

本紹介演題は、健康寿命と緊密に関連している骨粗鬆症に対して実際の遺伝子変異のモデルをin vitro, in vivoでゲノム編集を用いて作製しており、関心が湧いた。このモデルを活用した骨粗鬆症病態メカニズムの解明や治療法の開発をとおして、人々の健康と福祉が向上すると思われる興味深い内容であった。