日本骨代謝学会

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ANZBMS 2023 レポート
大塚 光(順天堂大学大学院 医学研究科)

学会会場(左)と発表風景(右)

紹介演題 [1]
Reducing hip and non-vertebral fractures in institutionalized older adults by restoring inadequate intakes of protein and calcium is cost-saving

キーワード

高齢者介護、費用対効果、骨折予防、栄養

研究グループ

Yeji Baek [1], Sandra Iuliano [2], Judy Robbins [2], Shirley Poon [2], Ego Seeman [2], Zanfina Ademi [3]

  • [1] Endocrinology, University of Melbourne / Austin Health, West Heidelberg, VIC, Australia
    [2] School of Public Health and Preventive Medicine, Monash University, Melbourne, VIC, Australia
    [3] Centre for Medicine Use and Safety, Monash University, Melbourne, VIC, Australia
サマリー

オーストラリアでは股関節骨折の30%は老人介護施設で発生しており、高齢化に伴い更なる増加が懸念されている。先行研究において、施設入所者に高カルシウム・高タンパク食品を提供する栄養介入を実施すると、股関節骨折やその他の非椎体骨折、転倒のリスクが減少する可能性が示唆されている。しかし、対象者の年齢が高い点、生存期間延長のエビデンスがない点を考慮すると、栄養介入が費用対効果に優れているかどうかは不明である。そこで、本研究では、老人介護施設における骨折リスク軽減のための栄養アプローチが費用対効果に優れているかを検討した。

27の施設入所者3313人(介入群)に対して、通常メニューに加え、1日当たりの摂取推奨量の牛乳、ヨーグルト、チーズを提供し、29の施設入所者3911人(対照群)に対しては通常メニューのみを提供した。2年間の追跡調査の結果、対照群の1日当たりの摂取量がカルシウム700mg、タンパク質58gであるのに対し、介入群ではカルシウム1,142mgおよびタンパク質69gを達成し、さらに、すべての骨折の発生率が33%減少した。この栄養介入に掛かった費用はわずか1人当たり1日AU$0.66であり、オーストラリアの人口レベルで換算すると、医療費および入所介護費の年間AU$66,780,000の節約に相当すると結論づけられた。

コメント

牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品は、各人の好みに合わせやすいため、継続して毎日の食事メニューに追加しやすいと感じた。本邦は性別や年齢に関係なく1日当たりのカルシウム摂取量が不足しており、要介護に結び付く大腿骨近位部骨折も近年増加している。そのため、本研究の食事介入は、施設入所高齢者のみならず、本邦や諸外国の骨折予防に対する公衆衛生対策として広く役立つかもしれない。

紹介演題 [2]
Gestational vitamin D and offspring fracture risk: Do associations persist into mid adolescence?

キーワード

骨折、妊娠、ビタミンD

研究グループ

Mia Percival [1], Kara Anderson [1], Julie Pasco [1] [2] [3] [4], Sarah Hosking [1], Lana Williams [1], Kara Holloway-Kew [1], Natalie Hyde [1], John Wark [5] [6] [7]

  • [1] Deakin University, School of Medicine, IMPACT, The Institute for Mental and Physical Health and Clinical Translation, Geelong, VIC 3220, Australia
    [2] Barwon Health, Geelong, VIC, 3220, Australia
    [3] Department of Medicine-Western Health, The University of Melbourne, St Albans, VIC, 3021, Australia
    [4] Department of Epidemiology and Preventative Medicine, Monash University, Melbourne, VIC, 3181, Australia
    [5] Department of Medicine, Royal Melbourne Hospital, University of Melbourne, Parkville, VIC, 3050, Australia
    [6] Bone and Mineral Medicine, Royal Melbourne Hospital, Parkville, VIC, 3050, Australia
    [7] Department of Diabetes and Endocrinology, Royal Melbourne Hospital, Parkville, VIC, 3050, Australia
サマリー

妊娠中の母親のビタミンDの曝露は、子供のその後の人生における骨の健康と関連する。以前の研究で著者らの研究グループは母親の妊娠中の血清25(OH)Dレベルと子供の10歳時の骨折リスクが性的二型の関連を示すことを見出した。そこで、本研究では同コホートにおいて、母親の妊娠中のビタミンDの暴露と子供の16歳時の骨折リスクとの関連を明らかにすることを目的とした。

妊娠初期(妊娠16週未満)および/または妊娠後期(妊娠28~32週)の母親の血清サンプルを採取し、25(OH)Dを分析した。妊娠初期および妊娠後期の母親の血清25(OH)Dレベルと16歳時の骨折リスクとの関連を明らかにするため、Cox比例ハザードモデルを使用し骨折リスクのハザード比を算出した。調整変数として募集時の母親の年齢、子供の性別、出生体重、妊娠期間、25(OH)Dサンプルの季節を用いた。その結果、妊娠初期の母親の血清25(OH)Dレベルが高いと男児の骨折リスクが低下する一方(HR 0.87;95%CI 0.77、0.99)、女児では逆に血清25(OH)Dレベルに応じて骨折リスクが上昇する傾向が見られた(HR 1.10;95%CI 1.00、1.22)。また、妊娠後期の母親の25(OH)Dレベルが高いと女児の骨折リスクが上昇したが(HR 1.14;95%CI1.04、1.24)、男児では骨折リスクに差はなかった(HR 0.96;95%CI0.87、1.06)。

コメント

妊娠初期と後期の2つの時点での母親の血清25(OH)Dレベルと小児骨折リスクの関連性は子供の性別に応じて異なる点が非常に興味深い。この性差が思春期以降においても長期的に継続されるかなど未解明な点があり、今後の更なる研究報告を待ちたい。

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