日本骨代謝学会

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基礎系 2016年座談会
骨・運動器領域の基礎研究の国内外の動向

司会
高橋直之 先生(松本歯科大学総合歯科医学研究所 所長)

座談会メンバー
網塚憲生 先生(北海道大学大学院歯学研究科硬組織発生生物学教室 教授)
高柳 広 先生(東京大学大学院医学系研究科免疫学 教授)
竹田 秀 先生(せいせき内科 院長)
西村理行 先生(大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座生化学教室 教授)

骨と神経系、他臓器の相互作用について

高橋それでは次に、竹田先生からお話をうかがいます。

竹田われわれは骨と神経系ネットワーク、多臓器との相互作用に着目して骨代謝を研究し、2000年には骨代謝が神経系の調節を受けていることを報告しています。3)その後、多くの研究者によってその説を支持する報告が相次ぎ、たとえばFSH、TSHが直接骨代謝に関与したり、大麻多幸様物質であるカンナビノイドの受容体が骨量の制御に重要であったり、最近では、エストロゲン受容体ノックアウトマウスでは骨量増加を認めるとする知見も出てきていますので、骨と神経の間には間違いなく密接な関係があると考えられます。
骨と他臓器連関を介した作用に関しては大きく2つのトピックがあり、まず1つ目は骨細胞がメカノセンサーのみならず、非常に多様な機能を有することが明らかとなってきている点です。その中で骨細胞に関してエポックメイキングだったのは、FGF23が骨細胞から分泌され、全身のリン代謝を調整しているとわかったことです。現在、FGF23抗体の臨床治験が順調に進み、骨由来のホルモンによる治療もいよいよ現実のものとなる段階まで来ています。少し話は逸れますが、抗RANKL抗体や抗SOST抗体なども含め、骨で発見された分子が治療に進んでいる点で、骨代謝領域は、基礎研究が直接、臨床に貢献できている稀有な領域ではないかと思います。

竹田秀先生
竹田秀先生

竹田2つ目は、骨細胞と同様に骨芽細胞、とりわけオステオカルシンが多様な機能を持つことが注目されている点です。オステオカルシンの存在はインスリン分泌を増加させ、男性の性腺機能向上や認知機能改善、運動による筋肉増強にも貢献することなどが報告されています。4)懐疑的に見る向きもありますが、それらの報告はマウスやサルのみならずヒトのデータでも裏付けられており、骨が非常に多彩な作用を有することは間違いないと言えそうです。今後、骨と他臓器との相互作用はますます注目されていくと思います。

高橋ありがとうございました。神経が骨代謝を支配するという新しい考え方は、形態学的にも確認されつつあり、この10年間で確立されてきたものであると思います。また、骨と他臓器との相互作用ですが、骨細胞を中心に様々な連携が認められます。FGF23とスクレロスチンに加え、骨細胞が発現するRANKLが骨代謝を調節するということも高柳先生らの研究で明らかにされました。また、これらの因子の発見から10年ほどで、それぞれ治療薬の開発にたどり着いた点も大変に興味深いと思います。

西村われわれは講義でホルモンやサイトカインの定義を教えていますが、ホルモンは従来、古典的概念として産生臓器と標的臓器が決まっていました。ところが、FGF23やオステオカルシンの発見により、骨は内分泌臓器であって、サイトカインと呼ぶべき物質がホルモン的作用を有するということで、ホルモンの概念や学問の切り口まで変わってしまった印象を受けます。

高橋そうですね。オステオカルシンに関して、糖質代謝を調節するホルモン様の作用が報告され波紋を呼んでいます。これらの研究はフロンティア研究であり、臨床研究が、オステオカルシンをどのように位置づけるか、今後重要であると思います。

竹田そうですね。重要なのは臨床的な意義だと思います。オステオカルシンの血中濃度を見て、血糖値ときれいな相関が認められるため糖代謝に重要な役割を果たすとする論文も多くありますが、インスリンや他の交絡因子の関与も除外できないと思います。
また、ビスフォスフォネートなどを使うと、骨吸収抑制作用によりオステオカルシンが低下しますが、それによる糖代謝や男性機能への影響は報告されていません。つまり、オステオカルシンが重要なのは確かですが、数あるプレーヤーのなかの1つなのではないかと思います。
それは神経系や他臓器が骨を調節するということに関しても同様であり、近年明らかとなってきた様々な役者のそれぞれに生理的な意義はあるものの、一方で、例えば、破骨細胞のマスターレギュレーターであるRANKLがなければ破骨細胞はまったく出来ないわけであり、最終的にはこうしたマスターレギュレーターに他臓器がどうかかわっていくかだと思います。

  • 3) Ducy P, Amling M, Takeda S, et al. Leptin inhibits bone formation through a hypothalamic relay: a central control of bone mass. Cell. 2000; 100(2): 197-207.
  • 4) Karsenty G, Olson EN. Bone and Muscle Endocrine Functions: Unexpected Paradigms of Inter-organ Communication. Cell. 2016; 164(6): 1248-56.
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