日本骨代謝学会

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基礎系 2016年座談会
骨・運動器領域の基礎研究の国内外の動向

司会
高橋直之 先生(松本歯科大学総合歯科医学研究所 所長)

座談会メンバー
網塚憲生 先生(北海道大学大学院歯学研究科硬組織発生生物学教室 教授)
高柳 広 先生(東京大学大学院医学系研究科免疫学 教授)
竹田 秀 先生(せいせき内科 院長)
西村理行 先生(大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座生化学教室 教授)

骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞の細胞間相互作用について

高橋それでは、次に網塚先生から、お話をうかがいます。

網塚骨芽細胞と骨細胞、破骨細胞の細胞間相互作用のうち、本日、ご列席の先生方から紹介された研究テーマを外して、2つの話題をご紹介します。
1つ目は、骨特異的な血管の発見についてです。骨の領域では、神経だけでなく血管も重要な役割を果たすと言われてきましたが、なかなか解明が難しいという問題がありました。ところが2014年に、CD31とエンドムチン強陽性の血管内皮細胞が骨特異的な血管であることが報告され、さらにそれが骨芽細胞の活性や、骨形成を促進しているという論文7)が報告されています。
また、血管内皮細胞で静脈系はEphB4、動脈系と毛細血管ではephrinB2を発現していて、それらのシグナルが送られるためには細胞間接触が必要といわれています。たとえば骨特異的なCD31・エンドムチン陽性の血管は、成長板軟骨近くでは、基底膜が分断化されて連続性を失っているため、そこで血管内皮細胞との細胞間接触を行う可能性があります。それに加えて、骨特異的な血管内皮細胞が、周囲の骨芽細胞系細胞とephrin系を介して骨形成を行っているという、非常に興味深い報告がなされています。
一方、骨形成においてはephrinではなくnotchが重要で、さらには、破骨細胞前駆細胞はPDGF-BBを出して血管を増やし、それにより骨が増えて行くという報告8)もあります。ただ、破骨細胞がいないマウスで血管新生が悪いという報告はないので、私はこの点について、果たしてPDGF-BBを産生するのは破骨細胞だけなのか、もう少し検討を重ねる必要があると思います。

網塚憲生先生
網塚憲生先生

網塚もう1つは、骨芽細胞がエクソソームを分泌するという報告です。近年、骨芽細胞が分泌する基質小胞はエクソソームではないかという幾つかの論文が報告されています。一般的に、エクソソームは接着因子や膜輸送体、Rasなどの関連因子のほか、SNAREも含有していることがわかっています。
エクソソームは、エンドソームからmulti-vesicular bodyという多胞体が細胞中に形成され、そこから分泌されると考えられています。一方、活発に基質合成を行う骨芽細胞はそれほど多くのmulti-vesicular bodyを持っていないでしょうから、基質小胞とエクソソームを同一視することには、個人的には疑問に感じています。
ただ、もし基質小胞がエクソソームとしての機能も持ち合わせていて、遠隔地の細胞に作用するのであれば、基質小胞は骨基質に向かって出される構造物ですからターゲットは骨細胞になるはずです。たとえば骨芽細胞と骨細胞は細胞突起を介して連絡していますが、それ以外に基質小胞をもってして骨細胞に石灰化などに関する情報を送るようなシステムがあるのかも知れません。エクソソームについては未解明な点が多く、恐らく今後、わかってくることが多いと考えています。

高橋ありがとうございました。私も基質小胞がエクソソームであるとは思いませんが、骨芽細胞がエクソソームを分泌することは注目すべきであると思います。骨芽細胞や破骨細胞がエクソソームを分泌して細胞間コミュニケーションを行っているという考え方は魅力的ですね。

網塚その背景に幾つかの論文があって、骨芽細胞の外に出るまでに、基質小胞に様々な物質が蓄えられてゆくという考え方があります。例えば、基質小胞は分泌される前にミトコンドリアからカルシウムを集めるという論文が報告されています。私は、この報告に関しては疑問に感じていますが、細胞膜上で基質小胞が形成される際に様々な物質が集められてゆくという考え方には賛成できます。それを発展させて考えると、エクソソームとしてのストーリーが出てくるのかも知れません。

高橋エクソソームのでき方は、発芽(budding)様式で形成される基質小胞と異なりますよね。組織学者は、肥大軟骨細胞や骨芽細胞による初期の石灰化において、エクソソームのような分泌顆粒を観察できるのでしょうか。

網塚重要なご指摘だと思います。高橋先生のおっしゃる通り、基質小胞は発芽(budding)によって細胞膜がpinch offして形成・分泌されると考えられています。一方、エクソソームはmulti-vesicular bodyから分泌されると考えられているので、この点において、基質小胞とエクソソームには大きな乖離があります。実は、エクソソームの研究の多くは、その形成や分泌様式に焦点が当てられているのではなく、内部の因子について解析されているのが現状です。今後、エクソソームの形成や分泌様式について明らかにされてくると思います。

西村私が冒頭でRunx2、Osterix以外の研究は進んでないとお話ししましたが、基質小胞がなぜできるかについてわれわれも10年以上、研究を続けています。エクソソームでも特異なエクソソームをつくっているのか、どういう膜性因子をつくっているのかとなると必ず分子が絡んでくるはずですが、既知のオステオブラストのマーカーでまったく説明できず、順番にノックアウトしているところです。

  • 7) Kusumbe AP, Ramasamy SK, Adams RH. Coupling of angiogenesis and osteogenesis by a specific vessel subtype in bone. Nature. 2014; 507(7492): 323-8.
  • 8) Xie H, Cui Z, Wang L, et al. PDGF-BB secreted by preosteoclasts induces angiogenesis during coupling with osteogenesis. Nat Med. 201; 20: 1270-8.
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