日本骨代謝学会

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基礎系 2016年座談会
骨・運動器領域の基礎研究の国内外の動向

司会
高橋直之 先生(松本歯科大学総合歯科医学研究所 所長)

座談会メンバー
網塚憲生 先生(北海道大学大学院歯学研究科硬組織発生生物学教室 教授)
高柳 広 先生(東京大学大学院医学系研究科免疫学 教授)
竹田 秀 先生(せいせき内科 院長)
西村理行 先生(大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座生化学教室 教授)

網塚先生、竹田先生、高橋先生、西村先生、高柳先生
(左から)網塚先生、竹田先生、高橋先生、西村先生、高柳先生

高橋本日は、骨代謝研究の第一線でご活躍の西村理行先生、竹田 秀先生、高柳 広先生、そして網塚憲生先生にお集まりいただき、「骨・運動器領域の基礎研究の国内外の動向」をテーマに、座談会を行いたいと思います。『THE BONE』誌において、基礎系の座談会の開催は2006年の「我が国の骨代謝基礎研究20年の先」以来、実に10年ぶりとなります。そこで各々の先生方より、それぞれの御専門の領域ごとに最新のトピックスを織り交ぜながら、当時から現在までの研究動向についてご紹介いただきたいと思います。

高橋直之先生
高橋直之先生

骨芽細胞と軟骨細胞について

高橋それでは、はじめに「骨芽細胞と軟骨細胞」について、西村先生からお願いいたします。

西村われわれはこれまで骨芽細胞と軟骨細胞の領域において、転写因子の制御機構を中心に研究を手がけてきましたが、骨芽細胞においては近年、最大のイベントともいうべきRunx2とOsterixの発見がありました。それにより骨形成過程のすべてが解明に至るような錯覚に陥りかけましたが、たとえば強力な骨形成作用を有するBMPは血中半減期がきわめて短く、少量の局所投与では骨形成を生じないなど、未解明の問題も多く積み残されています。
Wntシグナルの役割に関しては、抗SOST抗体の開発が進んだことで、その素晴らしい骨形成能が証明済みと言ってよいと思います。ただ、作用機序の解明に関してはβカテニン経路へ帰結していたのが、最近になって、Runx2と結合して骨芽細胞分化を促進するとされるTAZが、非古典的Wntシグナルによりβ-カテニン非依存的に活性化されることが報告されています。1,2)これにより、WntシグナルにおけるTAZの関与が混沌とするとともに、Wntシグナルの作用機序そのものについても多くの疑問が残されることとなりました。
一方、軟骨細胞に関しては、軟骨形成過程においてSox9が必須的な役割を果たしていることはもう揺るがぬところであり、その後のRunx2およびOsterixの発見も手伝って、分子機構については骨芽細胞より明確になってきたと感じています。

西村理行先生
西村理行先生

高橋ありがとうございました。BMPの作用についてですが、ヒトでは効果が確認されにくいと言われておりますが、その点についての研究は進展しているのでしょうか。

西村数々のネガティブフィードバック機構が分かってきていますが、げっ歯類と霊長類の違いにまで帰結できていません。上手く局所で作用すれば非常に有効な製剤となることが期待できますが、なぜあれほど強い作用を有するBMPが霊長類で効かないのか、治験になると成功しないのかがBMP研究のブラックボックスとなっています。

高橋そうですか。Wntについては、LRP5遺伝子の変異やスクレロスチンをコードするSOST遺伝子の変異が骨に異常をもたらすという発見が、ブレークスルーになったと思います。骨形成において、Wntシグナル系が重要な役割を果たすことは誰もが認めておりますが、Wntシグナルの詳細や、スクレロスチンの作用機構の詳細について、まだ解明されていないことも多いと思います。

竹田さらにWntについては、Wnt16が皮質骨と海綿骨に及ぼす作用が異なるという点が最近の関心事ではないでしょうか。皮質骨が増加しているのに海綿骨が減少する病態もあり得るわけで、そうなると創薬のターゲットとして、皮質骨により特化して効くようなWntに注目することも面白いのではないかと思います。

網塚たしかに、皮質骨は興味深いですね。たとえばPTH製剤を投与すると、海綿骨の骨量は増加する一方で皮質骨は減少しますが、そうしたリアクションが異なる背景には、Wnt16の関与があると考えられます。

竹田Wntファミリーの多くは発生・形態形成などの生命活動に機能しています。ところが、Wnt16などは出生後に効いてくるのも不思議な点です。それは高橋先生がおっしゃった阻害因子と関連してくるのかもしれません。

高橋また、西村先生のお話では、Sox9の発見とそれに続いてSoxに関連する転写因子が次々に発見されるなど、骨芽細胞に比べて軟骨細胞の分化調節機構の解明は、かなり進んでいるということですね。

西村そうですね。ただ、軟骨細胞でも成長軟骨についてはその通りですが、関節軟骨に限って言えばまだわからない点が多いですね。たとえばOA(変形性膝関節症)の発症・進展抑制を目的として、現在は軟骨細胞の肥大分化の過程など、関節軟骨に照準をあてた方向で研究が進んでいます。しかし、その視点だけでは病態解明は難しいのではないかと思いますし、われわれも4~5年前から関節について地道にデータを蓄積しているところです。

  • 1) Azzolin L, Zanconato F, Bresolin S, et al. Role of TAZ as mediator of Wnt signaling. Cell. 2012; 151(7): 1443-56.
  • 2) Park HW, Kim YC, Yu B, et al. Alternative Wnt Signaling Activates YAP/TAZ. Cell. 2015; 162(4): 780-94.
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