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臨床系 2016年座談会
骨ミネラル代謝研究・臨床における国内外の動向

司会
田中 栄 先生(東京大学大学院医学系研究科感覚・運動機能医学講座整形外科学 教授)

座談会メンバー
大薗恵一 先生(大阪大学大学院医学系研究科小児科学 教授)
宗圓 聰 先生(近畿大学医学部奈良病院整形外科・リウマチ科 教授)
福本誠二 先生(徳島大学藤井節郎記念医科学センター脂溶性ビタミン研究分野 特任教授)

宗圓先生、福本先生、田中先生、大薗先生
(左から)宗圓先生、福本先生、田中先生、大薗先生

田中本日は、骨代謝研究の臨床面について、第一線でご活躍中の大薗恵一先生、宗圓聰先生、福本誠二先生にお集まりいただき、「骨ミネラル代謝研究・臨床における国内外の動向」というテーマで討論を行いたいと思います。特にわが国の寄与と今後の展望について、骨粗鬆症の研究、ビタミンD研究、そしてカルシウム・リン代謝、この3つを大きな軸としてお話しいただければと思います。

田中栄先生
田中栄先生

骨粗鬆症について

田中それでは初めに宗圓先生からお願い致します。

宗圓骨代謝研究において重要なトピックスといえばRANKL、カテプシンKの発見がありますが、これらは元々日本の研究のなかで発見されました。その後臨床研究が進み、抗RANKL抗体であるデノスマブも日常診療で使用されるようになり、カテプシンKに関しても、阻害薬の臨床試験が終了しています(残念ながら本剤は開発中止となりました)。
臨床面において、現在ではFRAXというWHOの絶対骨折発生危険率算定ツールが一般的に用いられていますが、FRAXが発表されるまでは、Tスコアで-2.5を基準値とするWHOの骨密度基準が世界中で長らく診断に用いられていました。日本では、診断基準は日本骨代謝学会が作成してきており、1995年の発表後、1996年、2000年、2012年(日本骨粗鬆症学会と合同)に改訂されてきました。古くから骨密度だけではなく、既存骨折の有無も診断基準に含めており、先進的な考え方であっただろうと思います。
ガイドラインに関しては、1998年に厚生労働省研究班のワーキンググループから「骨粗鬆症の治療(薬物療法)に関するガイドライン」が最初に発表され、2002年に骨粗鬆症学会と骨粗鬆症財団により改訂され、2006年には、日本骨代謝学会が加わり、現在使われている「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」となりました(後の2011年、2015年改訂)。なお2006年以降、診断基準とは別に「骨粗鬆症の薬物治療開始基準」が設定され、いわゆる診断基準にある対象だけではなく、骨折がなく骨密度も骨粗鬆症一歩手前の人たちに関して、FRAXや大腿骨近位部骨折の家族歴などを用いてより広い範囲を治療対象にしてきました。
なお、ビスフォスフォネート関連顎骨壊死に対するポジションペーパー(2010年発表、2012年改訂)が骨代謝学会を中心として歯科関連の学会と共同で作成されており、2016年にさらなる改訂版が出されました。
脆弱性骨折がなかなか減らないというのは世界共通の悩みですが、ビスフォスフォネートの登場以降、大腿骨近位部骨折のみに注目すると、海外では随分以前から発生率が減少しています。しかしながら全体として見ると、脆弱性骨折がなかなか減少しない。脆弱性骨折が一度起こると、その次の骨折リスクははね上がりますが、われわれ整形外科医は手術は行うものの、その後の薬物治療介入を行っていないというのも1つの大きな問題点と考えられます。

宗圓聰先生
宗圓聰先生

宗圓もう十数年前ですが、英国でフラクチャー・リエゾンサービスが始まり、骨折患者さんに対して、骨折治療のみで介入を終えることなく、次の骨折の予防のための骨粗鬆症に対する治療介入を徹底しようという動きが起こりました。その運動が今、世界中に広がり、それによって様々な種類の骨折を含め全体として骨折発生率が減ったというデータが次々に出ています。日本もそれにならい、骨折リエゾンサービスという形で導入を検討していましたが、日本の骨粗鬆症治療率が非常に低い(EU平均の47%に比較し、現在30%)ことから1)、骨折を起こしていない人たちも含めて積極的に骨密度の測定を行うなどの介入を行うべきということで現在、骨粗鬆症リエゾンサービスという名称で骨粗鬆症学会が中心となり、内容を練り上げているところです。ただ、この運動は医師のみではなかなか進められないということを既に海外の動向から伺い知ることができるため、医師以外のスタッフに主導していただく予定です。英国では専任の看護師が担当していますが、日本では看護師や薬剤師、理学療法士などが要となるかと思います。

田中FRAXが出るずっと以前、1995年の初めにできた「原発性骨粗鬆症の診断基準」の時点から、日本では既存骨折がリスクとして認識されていました。骨粗鬆症において、整形外科の医師は骨折を1つの要素として重要視しており、一方で内科の医師は骨密度による客観的な判断を下すことに重きを置いていたのですが、その2つの考え方にうまく折り合いをつけたことが日本の骨粗鬆症診療に大きな独自性をもたらしたのではないでしょうか。ステロイド性骨粗鬆症にしても、独自性の高いガイドライン(ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン2014)ができています。
さらに言えば、わが国では日本骨代謝学会という枠組みがあり、そこに整形外科・内科の医師、歯科医師、基礎研究者が集まることで、骨代謝分野の基礎研究で世界を大いにリードし、実際の薬物開発にも繋がってきたのですが、これも他の国にはない独自性と言えます。おそらく海外では、整形外科医はあまり薬物療法に関与はしていませんよね。

宗圓そうですね。おそらく海外では骨粗鬆症の治療を整形外科医が行うことはほとんどないと思います。
ただ、海外でも、今回新しい診断基準で示した椎体骨折と大腿骨近位部骨折がある場合は、もうそれだけで治療対象になるんですね。必ずしも骨密度のみを見ているわけではなく、骨折を見つけたらすぐに治療介入しましょうという考え方は一緒だと思います。
また、診断基準や「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン2014」には疫学研究も大きく寄与していて、その作成に当たっては疫学の先生の意見というのは多大な影響がありました。

田中加えて、アレンドロネートのFIT studyは治療薬開発において非常にエポックメイキングな出来事ですね。米国がリードしてきた分野ですが、今後日本でも臨床研究を牽引していけるものなのでしょうか。

宗圓FIT studyは、3年間でプラセボ群も含めて4%しかドロップしていないというきわめて特殊な試験です。2)来院日に被験者が来なかったら、きちんと迎えに行って再診してもらうなど多大な労力を使っていますので、そこまで資金を投じた試験というのは現在では難しいのではないかと思います。

田中試験の枠組みをつくる際、骨粗鬆症の治療にかかわる多くの先生方が集まってプロトコルを練り、企業も協力して、非常に高い精度でつくり上げられた試験だと伺っています。

宗圓そうですね。当時日本では臨床統計学というのは独立したものではなかったと思いますが、臨床統計学の方々が主体となって試験を組むと、莫大な資金が必要ですが、そこに企業が協力する形で、プラセボ群から様々なデータを得ることができました。薬の効果を見定めただけではなく、放置するとどの程度次の骨折が起こるのか等、いわば、骨粗鬆症患者の運命をデータ化できた試験とも言えます。

  • 1) Kanis JA, McCloskey E, Branco J, et al. Goal-directed treatment of osteoporosis in Europe. Osteoporos Int. 2014; 25: 2533-43.
  • 2) Keegan TH, Schwartz AV, Bauer DC, et al. Effect of alendronate on bone mineral density and biochemical markers of bone turnover in type 2 diabetic women: the fracture intervention trial. Diabetes Care. 2004; 27: 1547-53.
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