日本骨代謝学会

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骨サミット

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基礎系 2017年座談会
骨・運動器領域の基礎研究の国内外の動向

司会
小守壽文 先生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 細胞生物学分野 教授)

座談会メンバー
池川志郎 先生(理化学研究所 統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム チームリーダー)
小林泰浩 先生(松本歯科大学 総合歯科医学研究所 硬組織機能解析学 教授)
宿南知佐 先生(広島大学大学院医歯薬保健学研究科 医歯薬学専攻 生体分子機能学 教授)

Wntシグナルによる骨代謝制御について

小守それでは次に,小林先生からWntシグナルに関する最近の話題についてお話をうかがいます。

小林骨吸収および骨形成を制御するWntシグナルは,β-カテニンを介する古典的経路(β-カテニン経路)とβ-カテニンを介さない非古典的経路を活性化します。古典経路は,Frizzled 受容体とLow density lipoprotein receptor-related protein 5/6 (LRP5/6)にWntが結合し,シグナルが伝達されます。最近では,β-カテニン経路を活性化するシグナルとしてWnt1が注目を浴びており,骨細胞が産生するWnt1は骨量調節における重要なリガンドで,osteogenesis imperfectaの治療標的となる可能性があることが報告されています10)。また,以前は骨芽細胞の分化において,β-カテニンが転写因子のRunx2やOsterix(Osx)と複合体を形成することにより転写活性が促進されると考えられていましたが,最近ではFrizzledとLRP5/6の下流でmammalian target of rapamycin complex 1 (mTORc1) シグナルが活性化されて,タンパク質合成および解糖系代謝が亢進することが骨形成に関与しているのではないかと示唆されています。

小守Wnt1をリガンドとしたβ-カテニン経路は,骨芽細胞における骨形成制御因子ではなく,骨細胞における骨形成制御因子として注目されるようになったということでしょうか。

小林そうですね。β-カテニン経路が骨芽細胞・骨細胞におけるosteoprotegerin(OPG)の発現を亢進して骨吸収を制御しているという従来の考えに加えて,骨細胞から分泌されるWnt1が骨形成を制御しているということになると思います。

小守そのほか,Wntシグナルに関するトピックスはございますか。

小林これまで,ゲノムワイド関連解析(GWAS)によってWNT4およびWNT16,ならびにWnt阻害因子であるSFRP4は骨量との関連性が示唆されていたもののその役割については不明でしたが,これらに関する新しい知見が報告されたことが最近のトピックスとして挙げられます。Roland Baronらの研究グループは,骨芽細胞由来のWnt16が破骨細胞形成を抑制して皮質骨の脆弱性骨折を防ぐことを発見し11),さらに皮質骨量および骨密度の調節におけるWnt16の重要な役割を確認しました12)。また,同研究グループは最近の研究により,SFRP4が皮質骨の菲薄化などを示す遺伝性疾患パイル病の原因遺伝子である可能性を報告しています13)。この報告によると,Sfrp4ノックアウトマウスでは皮質骨が菲薄化するにもかかわらず,海綿骨量が上昇するというWnt16をノックアウトした場合と類似の表現型を呈していますが,その理由の説明はいまだなされず,Sfrp4とWnt16の関係についても明らかになっていません。しかしながら,Wnt研究者は世界中に数多く存在しますので,今後さらに解明が進み,一つ一つ整理されていくことを期待しています。

小林泰浩先生
小林泰浩先生

小守最近では,転写抑制因子Snail,Slugと非古典的経路によって活性化される転写共役因子YAP,TAZが結合することでYAP/TAZのリン酸化が制御されて安定化し,YAP/TAZの機能を主に介在する転写因子TEADによる間葉系幹細胞の増殖が促進される,あるいはTAZと骨芽細胞の分化に必須の転写因子Runx2が複合体を形成して骨芽細胞分化を誘導するといった報告がなされていますね14)。すなわち,非古典的経路によりYAP,TAZが活性化されると骨形成が促進されるということになりますが,そういうかたちで非古典的経路のWntシグナルが骨形成を促進していく,ということになるのでしょうか。

小林YAP/TAZはWntの古典経路の活性化に伴って活性化され,骨芽細胞の分化を亢進することが報告され,注目されました。ご指摘のように最近,Wnt非古典経路がYAP/TAZを活性化し,これによって発現するWnt5aやWnt5bが,Wnt古典経路を抑制するシグナル経路が報告されました15)。われわれの研究では,Wnt5aのノックアウトマウスやヘテロの骨芽細胞において,石灰化能の低下が認められたことから受容体の発現誘導を調べたところ,LRP5/6の発現が低下していました。YAP,TAZが骨芽細胞の分化にどのように関与するか,コンセンサスが得られておらず,今後の課題だと思います。

小守Wntシグナルと骨芽細胞分化機構に関する研究では,Runx2を絡めたものが多いですが,いずれもin vitroのデータであるため,生体において何が本当に大事なのかを見極めるのは非常に難しいですね。

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