日本骨代謝学会

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骨サミット

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基礎系 2017年座談会
骨・運動器領域の基礎研究の国内外の動向

司会
小守壽文 先生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 細胞生物学分野 教授)

座談会メンバー
池川志郎 先生(理化学研究所 統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム チームリーダー)
小林泰浩 先生(松本歯科大学 総合歯科医学研究所 硬組織機能解析学 教授)
宿南知佐 先生(広島大学大学院医歯薬保健学研究科 医歯薬学専攻 生体分子機能学 教授)

骨関節の遺伝病について

小守それでは次に,池川先生から骨関節の遺伝病についてお話をうかがいます。

池川われわれの研究グループでは,単一遺伝子病について全エキソームシーケンスを行っており,各種の骨系統疾患における原因遺伝子の同定に成功しています。疾患遺伝子の発見により遺伝子診断が可能な時代へと導いたことはゲノム研究の素晴らしい成果ですが,病態や発症機構を解明するためには遺伝子ノックアウトによる検証などさらなる研究が必要です。
また,原因遺伝子が発見されたことで新たに疾患概念が提唱され,最近注目を集めている遺伝性疾患に繊毛症(シリオパシー)があります。骨格異常のほか,腎臓や心臓などさまざまな部位に異常をもたらす疾患です。シリア病関連遺伝子は1,000種類以上あるといわれていて,異常が生じる部位ごとに原因遺伝子が同定されています。われわれはシリア病関連遺伝子の異常により発症する骨格異常症をスケリタルシリオパシー(skeletal ciliopathy)と呼んでいますが,50~60種類のスケリタルシリオパシー原因遺伝子が既に見つかっています。
さらに,単一遺伝子病では創薬が盛んに行われています。多因子疾患に関しては,海外を中心にGWASによって創薬ターゲットとなり得る遺伝子の検索が行われており,大規模なコンソーシアムを形成するなど研究体制が発展しつつあります。しかしながら,GWASは疾患感受性遺伝子領域を同定するものであり,そのなかからどの遺伝子が疾患とかかわっているかを特定することはできません。したがって,多因子疾患において有望な候補遺伝子を絞り込むのは容易ではなく,新しい創薬ターゲットを逃している可能性もあると思います。

池川志郎先生
池川志郎先生

宿南単一遺伝子疾患の場合,iPS細胞を使った創薬研究なども可能ではないかと思いますが,多因子遺伝子疾患では難しいですよね。

池川多因子疾患はcomplex diseaseであり,動物モデルなどでヒト疾患との類似性を証明することも困難です。

宿南多因子疾患に関連する一塩基多型(SNP)が多数同定されていますが,転写因子が結合しにくいSNPなども存在するのですか。

池川勿論存在します。われわれの研究においても,後縦靭帯骨化症(OPLL)に罹りやすいタイプのSNPには転写因子C/EBPβの結合が弱く,疾患感受性遺伝子RSPO2の発現量が少なくなることが確認されています16)

小守ゲノム創薬における現状の問題点などはございますか。

池川遺伝子研究においては,病気の原因遺伝子を同定し,その機能について分子生物学的な解析を行うという一連の流れが世界的に主流になってきていると思います。しかしながら,わが国では遺伝子を検出する分野と機能解析を担う分野が独立しているところが多く,ビッグデータを活用して効率的に病気を探索するというシステムを上手く活かせていないところが問題です。

小守現在,クロマチン修飾などのデータが蓄積されつつありますが,一つの遺伝子の発現を制御するエンハンサーが複数あるという冗長性(redundancy)の問題もあって,転写制御機構を解明するには難しい側面があります。Scxなど遺伝子の転写制御においても,プロモーター以外にエンハンサーによる制御があると思いますが,どの領域がエンハンサーとして重要な役割を担っているかを特定することは難しいですよね。

宿南組織特異的な発現を制御しているエンハンサーをゲノム編集技術を用いて欠失させても,レポーター遺伝子アッセイでみられるような顕著な変化が現れないことがあります。その理由として,基本的にはredundancyが関係していると思われますが,そのほかに欠失したエンハンサーを代償する分子機構が作用している可能性もあるのではないかと考えています。

小守転写機構は柔軟性に富んだシステムで構築されているという感じでしょうか。

池川そうですね。欠損だけではなく,別の部位への組み込みも含めてゲノム全体として考えることが大事であり,たとえば多指症や欠指症などではゲノム上の距離が変わっただけというのが遺伝子変異の本質であるといわれています。Topology associating domain(TAD)はそうした知見をきっかけに発見された遺伝子変異ですが,TAD自体も細胞や組織によって全く異なり,データベースに収載されているものをみても全く違うので,病気を引き起こす真のメカニズムを証明するのは非常に難しいと思っています。遺伝子は本来3次元構造ですが,われわれ遺伝子研究者は1次元でしか捉えることができないのが弱いところです。

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