日本骨代謝学会

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基礎系 2017年座談会
骨・運動器領域の基礎研究の国内外の動向

司会
小守壽文 先生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 細胞生物学分野 教授)

座談会メンバー
池川志郎 先生(理化学研究所 統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム チームリーダー)
小林泰浩 先生(松本歯科大学 総合歯科医学研究所 硬組織機能解析学 教授)
宿南知佐 先生(広島大学大学院医歯薬保健学研究科 医歯薬学専攻 生体分子機能学 教授)

今後の展望と課題

小守私がRunx2の研究を始めた当初は,何かしらのカスケードが存在すると考えて探索を進めていました。しかしながら,20年にわたりこの研究に取り組んできたなかで,骨芽細胞分化を制御する転写因子は,お互いに発現を制御していることが多く,一つの転写因子下流に別の転写因子があって反応を誘導していくという縦方向に連続したシステムでは説明がつかないと考えるようになりました。
そのうえ,例えばRunx2抗体を用いたChIPシーケンス解析では,かなり多数の遺伝子領域にRunx2の結合が検出されますが,その多数の遺伝子の中で,Runx2が実際に発現制御に関わっている遺伝子を決めることは大変です。しかも,1つの遺伝子領域でも複数の領域にRunx2の結合が検出されますので,それらの領域を欠失させたマウスを作製するのも困難です。クロマチン修飾や転写因子の結合領域のゲノムデータベースが蓄積される中で,生理的に意味のあるものを見つけることの難しさがあります。この領域の基礎研究はどのような方向に進むのでしょうか。

池川転写因子は総体としてすべての生命現象にかかわっているとの考えを踏まえた上でアウトプットを考える必要があるわけですが,そういった意味では人間の頭では限界があり,計算科学に頼らざるを得ない部分もあると思います。

小林将来的には,コンピューター上で複雑な生命現象を解明するシステムバイオロジーが実現するのでしょうか。

池川医学の分野では,たとえば表現型に関して不明な点が多いなど基盤となるデータが曖昧ですし,骨系統疾患においては異常所見の捉え方が人によって異なるため,応用は難しいかもしれませんね。

宿南人間の場合,この論文のデータは再現性が高そうだけど,こちらの論文のデータはどうなのだろうというような微妙なところを考慮しながら情報を収集をします。そのあたりを人工知能(AI)に教え込むのは難しいのではないでしょうか。

池川そうですね。コンピューターは賢いですが,正しく教育してあげなければならないので大変です。最近では,大量の皮膚画像をデータベース化してAIで皮膚がんなどの診断を可能とするシステムが開発されています。骨系統疾患でもAIで診断できるシステムが開発できればと考えてみたのですが,疾患画像を撮影する方向が皮膚疾患のように一方向ではなくさまざまであったり,場所も異なったりと膨大な画像データを揃えなければならないため,現実的にはとても難しいと思いました。一方,AIに大量のデータを読み込ませて,自動的に骨系統疾患を見つけ出すシステムも考えましたが,まず正解データがないと成立しません。腫瘍などは正解データが多数存在しますが,難しい骨格の遺伝病などの場合には診断マーカーとして確立している原因遺伝子が発見されているものでなければ間違ったデータを作り出してしまいます。また,原因遺伝子がわかっているものでも,その遺伝子変異によって何も異常が起こらないことがよくありますので,AIを活用した研究はなかなか進んでいないのが現状です。

小守ところで,最近の遺伝子解析ではCre-LoxP系のコンディショナルノックアウトマウスが主体となっていますが,ラインによって発現レベルとパターンがかなり違いますよね。

宿南確かにばらつきがあります。われわれは,Cre-recombinase (Cre)を発現するトランスジェニック(Tg)マウス(ScxCre)を作成していますが,複数のTgラインだけでなく,ノックインマウスを作成したりして6),徹底的にin situ hybridizationで遺伝子の発現パターンを比較しながら,ラインごとの発現レベルや発現の範囲,特異性などをすべて確認してから論文発表に至りました17)

小守発現レベルや発現範囲などの違いまで検証している論文は少なく,都合よく解釈した論文で結論づけてしまっているという非常に危うい状況が心配されます。

宿南われわれは,ScxCreから2系統(ScxCre-L ,ScxCre-H )を樹立していますが,それぞれの特性に基づいた使い分けをアドバイスするようにしています。

小守先生方,ありがとうございました。「骨・運動器領域の基礎研究の国内外の動向」をテーマに,それぞれの研究領域における最新のトピックスをご紹介いただきました。また,先生方のお話のなかから骨代謝の基礎研究における展望や課題も見えてきたと思います。本日はありがとうございました。

先生方

refrences
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  • 7) Sugimoto Y, Takimoto A, Akiyama H, et al. Scx+/Sox9+ progenitors contribute to the establishment of the junction between cartilage and tendon/ligament. Development. 2013; 140: 2280-88.
  • 8) Schwartz AG, Long F, Thomopolus S. Enthesis fibrocartilage cells originate from a population of Hedgehog-responsive cells modulated by the loading environment. Development. 2015; 142: 196-206.
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  • 12) Gori F, Lerner U, Ohlsson C, et al. A new WNT on the bone: WNT16, cortical bone thickness, porosity and fractures. Bonekey Rep. 2015; 4: 669.
  • 13) Kiper POS, Saito H, Gori F, et al. Cortical-Bone Fragility--Insights from sFRP4 Deficiency in Pyle's Disease. N Engl J Med. 2016; 374: 2553-62.
  • 14) Tang Y, Feinberg T, Keller, et al. Snail/Slug binding interactions with YAP/TAZ control skeletal stem cell self-renewal and differentiation. Nat Cell Biol. 2016; 18: 917-29.
  • 15) Park HM, Kim YC, Yu B et al. Alternative Wnt signaling activate YAP/TAZ. Cell. 2015; 162: 780-92.
  • 16) Nakajima M, Kou I, Ohashi H, et al. Identification and Functional Characterization of RSPO2 as a Susceptibility Gene for Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament of the Spine. Am J Hum Genet. 2016; 99: 202-7.
  • 17) Sugimoto Y, Takimoto A, Hiraki Y, et al. Generation and characterization of ScxCre transgenic mice. Genesis. 2013; 51:275-83.
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