日本骨代謝学会

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臨床系 2017年座談会
骨ミネラル代謝研究・臨床における国内外の動向

司会
田中良哉 先生(産業医科大学医学部第1内科学講座 教授)

座談会メンバー
伊東昌子 先生(長崎大学病院 副学長 / ダイバーシティ推進センター長)
遠藤直人 先生(新潟大学大学院医歯学総合研究科機能再建医学講座 整形外科学分野 教授)
杉本利嗣 先生(島根大学医学部内科学講座内科学第一 教授)

遠藤先生、伊東先生、田中先生、杉本先生
(左から)遠藤先生、伊東先生、田中先生、杉本先生

はじめに

田中日本骨代謝学会総会は前身の研究会から数えると,今回で50周年となります。内科,整形外科だけでなく,放射線科,あるいは医学部以外に歯学部,薬学部,工学部,理学部,栄養学部などさまざまな領域の方々が参加され,多様な視点からサイエンスを高めているのが本学会の特徴です。本分野において日本は非常に大きな貢献をしてきたのは厳然たる事実です。本日はこの50年を振り返るとともに,最近のトピックスについて,本分野のトップリーダーである杉本利嗣先生,遠藤直人先生,伊東昌子先生にお話を伺いたいと思います。

田中良哉先生
田中良哉先生

骨粗鬆症や骨代謝異常症の日本の現況

田中まず遠藤先生に,骨粗鬆症や骨代謝異常症の日本における現況についてお話しいただきたいと思います。

遠藤骨粗鬆症は骨が脆くなり骨折することが一番の問題ですが,なかでも大腿骨近位部骨折は高齢者に多く,生命予後も悪くなります。これについての疫学調査は多々行われており,新潟県でも同県の総人口240万人を対象に骨折の全数調査を実施してきました。1985年では1年間に677例でしたが,2010年には3,218例と約5倍に増加し,かつ骨折例はより高齢化していました。しかし,2015年は2010年と総数はほぼ同じで,増加がやや鈍化したのではないかと考えています。また,折茂肇先生を中心とするグループでも,その増加は一部の年代で若干プラトーになってきたと報告しており,全国的に増加率については一部鈍化してきたといえるのではないかと思います。

遠藤直人先生
遠藤直人先生

田中まずベースとなる骨粗鬆症の患者さんの数はいかがでしょうか。

遠藤吉村先生の骨密度等を測定した研究では,診断基準から判断すると1,000万~1,300万人と推定しています。

田中ミネラル代謝異常症を加えると,かなりの数になりますね。

骨粗鬆症やミネラル代謝異常症に関するトピックス

田中杉本先生,内科疾患における骨粗鬆症やミネラル代謝異常症に関する最近のトピックスをご教示いただけますでしょうか。

杉本2000年代に入り生活習慣病と骨代謝異常の密接な関連が注目されてきており,なかでもとりわけ注目度が高いのは糖尿病です。糖尿病では骨密度が保たれていても骨折リスクが高いことは国内外でコンセンサスが得られており,骨質劣化を中心とした骨代謝異常,骨脆弱性亢進が認められます。この骨脆弱化機序に酸化ストレス,AGEs-RAGE系が大きくかかわっていることもわかってきています。また,構造特性ならびに材質特性の劣化を証明するような臨床研究データも数多く出てきています。
ミネラル代謝異常の観点からは,慢性腎臓病(CKD)に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)がまず挙げられます。これは骨の異常のみならず心血管イベントや生命予後に大きな影響を及ぼす全身疾患と認識され,これらを引き起こす因子として初期段階からのFGF23上昇が注目されています。そして国際腎臓病予後改善委員会(KDIGO)国際ガイドラインが最近改定されています。
代謝性骨疾患で最も鑑別が必要となるのは骨軟化症であり,その確定診断は骨生検によるわけですが,どこでも行えるわけではありません。そこで,骨代謝学会,内分泌学会,厚生労働省研究班合同で,2015年にくる病・骨軟化症の診断マニュアルが,そして2017年にはビタミンD不足・欠乏の判定指針が出されました。また,2016年8月にくる病・骨軟化症に対する血清25(OH)D測定が保険適用となり,遅ればせながら世界標準のビタミンD代謝異常ならびにミネラル代謝異常症の診療が可能となりつつあると思います。

田中日本人では血清ビタミンD3濃度が低く,特に糖尿病あるいはCKDなどの他の内科疾患を伴った場合には顕著といわれていますが,いかがでしょうか。

杉本報告は多々出てきていますが,まだわが国では小規模データですので,規模の大きな試験で検証していく必要があると思います。

田中日照時間が少ない地域の住民は,特にビタミンD3が少ないと思いますが,遠藤先生,疫学調査などはございますか。

遠藤一般的には南や西のほうが日照時間は長いと考えられます。実は大腿骨近位部骨折は患者さんの分布でいうと西高東低で,単純に日照時間だけの問題ではないといえます。われわれのグループで大腿骨近位部骨折の有無により血液中25(OH)D値を比較したところ,骨折あり群はなし群に比べて25(OH)D値が低く,それに対応するようにiPTH値が高いという結果が得られました。また,新潟,愛知,鳥取の3ヵ所で同時に調査したところ,25(OH)D値は脊椎骨折,大腿骨近位部骨折あり群両者ともに基準値よりも低かったのですが,大腿骨近位部骨折例のほうがより低値でした。また,大腿骨近位部骨折患者が来院された際に全員に脊椎のX線検査を実施したところ,8割に既存の脊椎骨折が認められました。これらの結果から少なくとも骨折リスクとしてビタミンD不足があり,脊椎骨折を起こし,次に大腿骨近位部骨折を起こすという流れがあるのではないかと考えています。

田中われわれの調査では,糖尿病患者の8割以上がビタミンD3欠乏状態で,関節リウマチ患者では9割近くでした。これまでは続発性,あるいは危険因子といわれていましたが,実はビタミンD3濃度が大いに絡んでいるように思いますが,いかがですか。

杉本糖尿病,CKD,慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの骨折リスクの高い生活習慣病や関節リウマチにおいてもビタミンD不足・欠乏例が大部分であり,これがどの程度骨折リスク上昇にかかわっているか,興味深いところですね。
また,ビタミンD不足・欠乏は骨ミネラル関連事象のみならず,生活習慣病発症や免疫異常,そしてがんといった多面的な関連性も注目されています。今後,わが国発の研究成果が次々と出てくることが期待されます。

田中伊東先生,画像診断の観点からはいかがでしょうか。

伊東X線検査を行う目的はさまざまですが,例えば胸部X線検査で椎体骨折を見つけることができれば,別の疾患で受診している患者さんの骨粗鬆症治療の入り口になれる可能性があります。放射線科医がX線写真で椎体骨折も見るよう意識することや,他の目的で撮ったCT検査で椎体骨折を発見することは,画像診断の重要性を高めることに繋がると思います。

田中どの診療科の先生も画像をしっかり見る必要がありますね。

伊東われわれがレポートしても主治医で止まってしまうことがないように,見ていただければと思います。

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