日本骨代謝学会

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臨床系 2018年座談会
骨ミネラル代謝研究・臨床における国内外の動向

司会
竹内 靖博 先生(虎の門病院内分泌センター センター長)

座談会メンバー
秋山 治彦 先生(岐阜大学大学院医学系研究科医科学専攻病態制御学講座 整形外科学分野 教授)
井上 大輔 先生(帝京大学医学部医学科ちば総合医療センター 第三内科学講座 教授)
萩野 浩 先生(鳥取大学医学部保健学科 教授)

整形外科領域における治療の進歩

・再生医療の展望

竹内それでは秋山先生、整形外科におけるトピックスについて、お話をお願いいたします。

秋山整形外科領域では、細胞を用いた再生に関して、bone marrow stromal cellやiPS細胞を用いた組織再生の研究が進んでいます。実臨床においては、患者さんの膝の軟骨細胞を採取して培養し、それをフォーカルな膝の関節軟骨、肘の関節軟骨の欠損部に移植するという方法が実践されています。しかしながら細胞治療では、大きな骨・軟骨欠損は治療することができませんので、近年ではポリマーの研究が進んでいます。例えば米国では、足趾に使用するポリマーの人工軟骨が認可され、臨床で使われ始めています。日本でも固体のポリマーの他に、ゲル状のインジェクタブルなポリマーを用いて軟骨を再生する、あるいはそこに細胞を混ぜて使用する、という試みもあります。また細胞も、ばらばらの細胞を軟骨に移植するというよりは、軟骨細胞シートを積層させてそれを移植するという方向で東海大学が研究を進めており、現在は関節軟骨の大きな欠損をどのように再生させるかが主に研究されているという状況です。
その他に、成長因子、サイトカインですね。米国では、骨形成蛋白質(bone morphogenetic protein:BMP)が実臨床で認可されており、脊椎の前方固定の際にチタンケージの中に骨を入れ、そこにBMPを注入するという手法が取れるのですが、日本では認可がされておらずこの分野での組織再生、骨軟骨再生の研究が進んでいないのが現状です。
FGF2に関しましては、東京大学整形外科が2007年と2010年にヒトを対象に臨床試験を行っています。膝の変形性関節症(OA)の初期段階で、膝のO脚をX脚に直す手術(高位脛骨骨切り術)において骨切り部にFGF2をインジェクションするという臨床試験と、脛骨の骨折が骨融合しにくいという点で、そこに投与することで臨床試験を実施し、骨融合が短縮したという論文が出ていますが、実臨床の方では承認されていない状況です。

秋山治彦先生
秋山治彦先生

竹内細胞を用いた再生医療は、以前から特に関節軟骨で検討されていますが、そのときに問題になったのは、若年者はそれなりの効果が期待できるものの、高齢者では自身の細胞を増やして移植するのもなかなか難しいという点で、治療を必要とする患者数が多い高齢者でどのように適用するのかが議論になっていました。最近では人工物であるポリマーなどの応用が検討されているのでしょうか?

秋山OAに関していえば、高齢者では非常に広範に関節軟骨の変性がみられますので、それを細胞移植ですべて治すのは難しいと思います。理想的な形としては、いわゆる初期、またはフォーカルなものに関して、細胞治療やポリマーなどを用いて治療し、広範囲になった方に関しては人工関節を入れるというのが現実的な治療の選択ではないかと思います。現在のポリマーは、いわゆる人工関節的なものもありますが、ポリマーのなかに骨髄の幹細胞が浸入してきて、それが軟骨に分化するという機能のものもあります。足場材料としてご自身の細胞を移植して混ぜるのではなく、ご自身の体のなかの骨髄幹細胞を関節に誘導して、軟骨を形成させるという試みもされています。

竹内これまでOAと骨粗鬆症は相反する病態といわれてきましたが、膝などでも骨粗鬆症の程度が強い方に脛骨の陥没、大腿骨骨折が起こったり、それが実はOAに起因したりという症例もあるのではないでしょうか。

秋山そうですね。MRI撮像時、膝OAの方も関節面に面した海綿骨に骨挫傷様の浮腫が見えたりしますので、外力が加わって骨髄のなかに何らかの影響があるのは確かだと思います。

秋山いわゆる脆弱性骨折は、近位部骨折や橈骨遠位端骨折、脊椎の圧迫骨折以外に、少し前までは、恥骨、坐骨の骨折などがよく知られていましたが、近年では仙骨などを骨折される方が増えてきています。急速破壊性股関節症などもそうでしょうが、以前は荷重がかかっても折れなかったような部位が、高齢化などの背景もあり、骨折を起こしてしまう症例が増えてきていると思います。

竹内今後、関節と骨にまたがる領域におけるより詳細な病態の解明が、高齢者の骨関節疾患に対する治療の進歩に繋がるものと期待されます。

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