日本骨代謝学会

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2020年 WEB座談会
骨ミネラル代謝研究・臨床における国内外の動向

司会
福本 誠二 先生(徳島大学先端酵素学研究所 藤井節郎記念医科学センター 特任教授)

座談会メンバー
網塚 憲生 先生(北海道大学大学院歯学研究科口腔健康科学講座硬組織発生生物学教室 教授)
斎藤 充 先生(東京慈恵会医科大学整形外科 教授)
妻木 範行 先生(京都大学iPS細胞研究所増殖分化機構研究部門細胞誘導制御学分野 教授)

福本斎藤先生ありがとうございました.続いて基礎的なことになりますが,網塚先生にお聞きしたいと思います.これは完全に私の興味からですが,2010年代になってからノーベル化学賞で顕微鏡関係の受賞が2つありました.私は素人なのでよくわからないのですが,これは何が新しいのかというのを簡単に教えていただきたいと思います.

網塚骨の世界でも,他の組織の世界と同じように構造をきちんと解析することは非常に大事なことです.例えば,骨の組織解析に共焦点レーザー顕微鏡が使われてきましたが,理論上の解像度に達しないという問題があり,近年,それを克服する新しい顕微鏡が開発されてきています.どのような点が問題かというと,サンプルに光が当たった時の散乱光がどうしても邪魔になってしまいます.その散乱光をいかに消して,焦点を当てている観察部位の光線を拾ってくることがポイントなのです.最近使用されるようになってきている顕微鏡の1つに,stimulated emission depletion(STED)というのがありますが,それは,焦点を当てている周りに生じる散乱光を消すことで,観察部位のみからの光線を捉える方法です. 実際には,共焦点レーザー顕微鏡観察で,観察部位に生じた散乱光に対して,リング状の光を当てることで散乱光を打ち消しています.これは,実質上,共焦点レーザー顕微鏡の2倍の解像度が得られるといわれています.一方,これに近い顕微鏡として,構造化照明顕微鏡法(Structured Illumination Microscopy:SIM)というものがあります.一般的に,観察の対象物に可視光を照射したときに出てくる散乱光に対して,SIMは縞状の光をいろいろな方向から当ててやることで周りの散乱光を消す方法です. SIMは共焦点レーザー顕微鏡と組み合わせて使用することもできます.

網塚 憲生先生
網塚 憲生先生

これは当教室の長谷川智香助教が撮影した骨細胞のネットワークの写真です.こちらは普通の蛍光顕微鏡でみた像ですが,一方で,これはSIMを使用した可視光での画像です(図1).両者は,同じ顕微鏡で同じ対物レンズを用いて観察した光学顕微鏡像です.SIMを用いるだけで,先ほどのこの画像がここまできれいにみえます.

図1
(図1)

もう一つは福本先生がおっしゃったクライオ電顕ですが,これは蛋白を精製して瞬時に凍らせて,そこの構造解析をするという電子顕微鏡です.昔は蛋白の構造解析というのはX線結晶構造解析や核磁気共鳴(NMR)などで行ってきたと思いますが,いまはクライオ電顕で解析することも多くなってきたようです.ですが,クライオ電顕も含めて超解像の電子顕微鏡は振動や磁場に弱いので,そのような高解像の電子顕微鏡を設置する環境も整備しないといけません.一方で,私たちのような研究室として使用できる電子顕微鏡で有用と思われるものに集束イオンビーム走査電子顕微(FIB-SEM)があります.たとえば先ほど斎藤先生がおっしゃったように,コラーゲンの配列や構造や骨細胞のネットワークを電子顕微鏡レベルで立体的にみたい,あるいは,細胞内の立体構造をみたい,といったことを可能にするのがFIB-SEMです.FIB-SEMは,イオンビームをサンプルに照射することで観察する平面をわずかに深く切削する一方で,切削した後にSEMで画像を取ってゆくことができます.サンプルの切削と画像撮影を数百回繰り返すことで,各画像を重ね合わせることで,三次元的な微細構造を構築することができます.ただし,FIB-SEMの画像を透過型電子顕微鏡の画像に匹敵するようにしなければなりませんが,それは,電子線ビームを細かく当てることで解像度を上げることができるフィールドエミッション走査型電子顕微鏡の開発によるところが大きいと思います.そのようなFIB-SEMを用いて,当教室の長谷川助教が,実際に,骨細胞の細胞突起の三次元的な微細構造を観察しており,国際雑誌の表紙を飾っています(図2).

話をまとめますと,共焦点レーザー顕微鏡およびSTEDやSIMが身近な観察機器として,我々にも使えるようになってきた.そのために骨細胞や骨芽細胞をはじめ骨の細胞群や基質の構造や特性が明らかにされてきた,というのが最近の状況と思います.

図2
(図2)

福本ありがとうございました.先ほどからでています骨細胞ですが,網塚先生は以前から骨細胞の研究を進められていますが,現状での問題点ですとか,あるいは先生が興味を持たれていることなどお聞かせ戴けますでしょうか.

網塚そうですね.近年の報告でインパクトが強いのは『Cell Metabolism』に掲載された中島先生のグループの論文です.そこでは,エストロゲンがどうやって骨量維持をするのかについて,骨細胞から産生されるSema3が骨細胞自身のneuropilin-1に結合して骨量を維持させるメカニズムが明らかにされています.そして,それは骨芽細胞ではなく骨細胞由来のSema3が重要であることが,いろいろな遺伝子組換マウスを用いて証明されています.それだけでなく,エストロゲンによる骨細胞のSema3やneuropilin-1のシグナルは骨細胞のapoptosisの抑制やサバイバルを維持するのにも重要なことが記されていたと思います.また,それとは別に骨細胞に関係する興味深い論文が『Nature Communications』に報告されています.それは,PTHやPTHrPが骨細胞からのephrin-B2の産生を上げると述べています.たとえば骨細胞特異的にephrin-B2をノックアウトすると,骨細胞がautophagosomeをつくり始める一方で,基質小胞を過剰に産生してしまうため骨基質の石灰化が亢進してしまう,そのため,脆弱な骨基質になってしまうという内容です.先ほど斎藤先生がエストロゲンやPTHもコラーゲンの骨質に関与するお話をされましたが,コラーゲン合成のときだけではなくて,コラーゲンがつくられた後も何らかのメカニズムでコラーゲンの質が管理されている可能性がある.そして,それを行っているのが,やはり骨細胞であり,その骨細胞の状態をコントロールしているのがエストロゲンやPTH/PTHrPであるといった話になるかと思います.今,お話した『Cell Metabolism』や『Nature Communications』は見事にそのメカニズムを解明してくれたのだろうと思います.さらに,私が驚いたのは,骨細胞ネットワークの中で,隣りにいる骨細胞の状態が悪くなったりストレスがかかったときに,隣接する骨細胞の突起と突起の間を貫いてミトコンドリアを供給することによって,状態が悪くなった隣の骨細胞の内部環境を改善するという報告が『Science Advances』に報告されていました.この研究は培養細胞を使っており,動物を用いたin vivoでの報告ではないですが,非常に面白い現象だと思いました.もう一つ.骨細胞がサバイバルできなくなってnecrosisを起こした場合にdamage-associated molecular patterns(DAMPs)を出すのですが,一方で,破骨細胞の前駆細胞がDAMPsの受容体を持っていて, DAMPsをだしている骨細胞のところに寄ってきて骨吸収を起こすという報告が『Journal of Clinical Investigation』に報告されていました.
近年,骨細胞のネットワークやサバイバルに関することが報告されており,骨細胞ネットワークによる破骨細胞誘導についても,多くの報告がなされているようです.

福本ひとつだけ,ミトコンドリアが移動するということですけれど,それは細胞膜をどういうかたちで通るのですか.

網塚彼らの報告では,ERとミトコンドリアが接した状態で運ばれるようです.ただ,骨細胞の突起と突起の間にはgap junctionがありますので,私も見過ごしているかもしれませんが,そこをどうやってミトコンドリアがくぐり抜けていくのかは興味深い点です.観察方法として,高解像の共焦点レーザー顕微鏡を用いており,先ほどお話した超解像やFIB-SEMといった電子顕微鏡レベルの解析ではありませんので,そこを通り抜けるメカニズムは詳細にはわかりません.

福本わかりました.ありがとうございます.

網塚もう一つ面白いと思いましたのは,既にご存知かもしれませんが,piezo1は,もともと血流センサーとして報告されていますが,piezo1が骨細胞のネットワークに発現しており,ずり応力を感知するという論文が『eLife』に報告されています.Piezo1をノックアウトすると,あたかも尾部懸垂モデルのようなメカニカルストレスが低下した骨量減少を呈したということから,piezo1は骨細胞のネットワークのメカノセンシングに関わる重要な因子であると述べられています.さらに,重要と思った報告が一つありまして,「Osteon in Osteon」という構造の発見です.皮質骨には同心円状のOsteon(オステオン:骨単位)が存在しますが,Osteonは骨細胞ネットワークを介した一つの機能的な単位と考えられます.そのOsteonに蛍光色素を注入すると,骨細胞ネットワークが全体的に一塊としてつながれているOsteonがある一方,骨細胞ネットワークが途切れてしまい,1つのOsteonの中に,ハバース管周囲の同心円状の骨細胞ネットワークと,その外周に内部の骨細胞ネットワークと連続性を示さない同心円状の骨細胞ネットワークを示すOsteonが報告されています.彼らは,この構造をOsteon in Osteonと表現しています.この報告が正しいとすると,私たちはOsteonを一つの構造機能体と考えてきたわけですが,少し考え直さなければいけないことになります.一例ですが,57歳の女性の大腿骨の骨幹部のサンプルを解析すると,16個体のうち,8つの個体がosteon in osteonを有していたということです.従って,骨細胞ネットワークが骨にかかるメカノセンサーとして機能していて,また,骨の細胞群の司令塔として役割を果たすのであれば,Osteon in Osteonの存在を考えていかなければいけないと感じました.

福本ありがとうございます.斎藤先生.妻木先生.ご質問などありますでしょうか.

妻木最新の顕微鏡のご説明ありがとうございました.私は軟骨を主に研究しています.内軟骨性骨化でできる骨においては,以前は肥大化軟骨細胞が死んで,新たに骨芽細胞が入ってくるといわれていました.しかし,近年の研究からは,実はそうではなくて,肥大化軟骨細胞が骨芽細胞あるいは骨細胞に分化転換しているpopulationもあるという報告がマウスのlineage tracingで報告されてきています.それが本当かどうか,あるいはもしそういうことが起こっているなら軟骨細胞が骨芽細胞に変わっていく途中の細胞を捉えたりするような電子顕微鏡での研究アプローチというのは可能でしょうか.

網塚可能だと思います.過去の報告に,GFPマウスを駆使することで,肥大化軟骨細胞が骨芽細胞にtrans-differentiationするという報告があったと記憶しています.私たちが,胎生期あるいは成長期マウスの肥大化軟骨細胞層と骨組織の境界部を電子顕微鏡観察しますと,血管内皮細胞が軟骨小腔に侵入して石灰化を受けていない横隔壁を貫く時に,肥大化軟骨細胞は軟骨小腔から出来る像を観察しています.しかし,それら肥大化軟骨細胞は死んでなくて,生きたまま放り出されているように見えます.まさに,肥大化軟骨細胞が血管と骨芽細胞のあいだの領域に漂っているように見え,骨芽細胞にいきなりなるというよりは,血管と骨芽細胞のあいだに存在するような細胞群の中に紛れ込んでいくといった印象を受けています.ただし,具体的には,その後,その肥大化軟骨細胞がどうなっていくのか,解析はしていません.私たちがこれまで見てきた電顕像を踏まえると,私は,GFPマウスを用いた論文はあながち間違いではないと思っています.ただし,従来の考え方では,一次骨化における骨芽細胞は,血管が軟骨原基に入ってゆくときに伴走していた骨原生細胞に由来するとされており,そのような骨芽細胞前駆細胞と軟骨からtrans-differentiationした骨芽細胞ではどのくらいの比率なのか,また,それらの役割に違いがあるのかというのは,私には十分な情報がありません.それは妻木先生ほうが,詳しいのではと存じますが如何でしょうか.

妻木海綿骨の骨芽細胞のうちの4割近くは軟骨細胞由来だとの報告があると思います.lineage tracingの実験で細胞数をカウントした結果,そういう数値になったとの報告を覚えています.肥大化軟骨細胞というのはすごく大きくて,増殖を止めた細胞です.それが小さな骨芽細胞に変わるところの中間体というか,そういう連続的な変化というのをタイムラプス撮影とかで形態的に捉えることは可能でしょうか.

網塚そうですね.私たちの技術でしたら,肥大化軟骨細胞に何らかのマーカーを付けることができたら,透過型電子顕微鏡やFIB-SEMで観察することができると思います.肥大化軟骨細胞はたしかに肥大化しているのですが,その中に存在する粗面小胞体やミトコンドリア,ゴルジ体は一つの細胞内小器官としてきちんとした構造をしていますし,細胞骨格や輸送小胞そして細胞膜(単位膜)も正常です.肥大化軟骨細胞は,あくまでも細胞体が大きくなって細胞内小器官の間の細胞質の空間が拡がっただけで,そこに存在する微小管やアクチンフィラメントなどの細胞骨格,ゴルジ体,粗面小胞体の構造は,他の細胞と変わりありません.恐らく,肥大化軟骨細胞にはGULT1やアポクリンや,それらに関連するチャネルがあって細胞体を膨らませているのかもしれません.しかし,それは何らかの必要性があってのことであり,状況が変わればまた元に戻る可能性は十分あるのではないかと考えています.

妻木Terminally differentiated cellとかいわれていますけれど,形態的には正常な構造ということですね.

網塚そうだと思います.

妻木ありがとうございます.

福本いままでは肥大化軟骨細胞がアポトーシスになるというデータがあったと思いますが,アポトーシスにならないものもあるということですか.

網塚10年以上前に議論されてきたことですが,そもそも,アポトーシスは,1970年代にKerrが小腸上皮を電子顕微鏡観察した際に,アポトーシスに陥った細胞に用いた言葉です.骨の研究においても,アポトーシスが話題になってきたときに肥大化軟骨細胞はアポトーシスを起こすという多数の論文が報告されました.その一方で,肥大化軟骨細胞はアポトーシスを示すだけではないという論文も多く報告されています.肥大軟骨細胞に分化する前の段階でasymmetricなcell divisionを行ったときに1個はアポトーシスで死ぬけれど,1個は生きているという論文も報告されています.従って,この件については,論文的にはまだ決着がついていません.ただし,私たちがみる限り,特に発生期や成長期のマウスやラットの成長板軟骨における肥大軟骨細胞はアポトーシスで死んでいるというのは,先ほど述べましたように,電顕観察における細胞膜や細胞内小器官を考えると,簡単に受け入れるのは難しいと思います.もし肥大軟骨細胞がアポトーシスで死んでしまうのであれば,Type X collagenやオステオポンチンの発現,さらには,基質小胞を分泌して基質石灰化を誘導する現象は見られないのではないかというのが個人的な考えです.

福本低リン血症で肥大成長軟骨帯の構造異常がおこるのは,リンがアポトーシスを誘導するので,低リン血症になると肥大軟骨細胞がアポトーシスにならないからそこの構造が残ってしまうという説がありますが,それは正しくないのでしょうか.

網塚低リン状態になると肥大化層が増大してくるメカニズムについてですね.肥大化軟骨細胞のアポトーシスを考える前に,軟骨内骨化のメカニズムを考える必要があると思います.成長板軟骨直下の骨・軟骨移行部では,血管の軟骨侵入・軟骨への誘導,および,軟骨基質の石灰化のパターンは組織学的に規則性を有しており,適当に起きているのではありません.軟骨内骨化では,血管の軟骨内侵入は,骨の長軸方向に誘導されますが横に曲がって侵入ことはありません.それは,軟骨カラム間の長軸方向の基質は石灰化を受けるが,軟骨カラム内の横隔壁は石灰化を受けないため,血管は軟骨の奥へと進むようにできているからです.また,破骨細胞と血管の連携プレーもありますし,骨の世界ではあまり話題にならないですが,マクロファージ系ではない間葉系由来と考えられているゼプトクラストseptoclastという第三の細胞も存在します.従って,低リン状態における軟骨内骨化については,肥大化軟骨細胞そのものの状態もそうですが,それによって,軟骨基質の石灰化パターンが血管が侵入していけるようになっているか,また,血管を誘導するVEGFの発現や破骨細胞・血管そのものなど,いろいろと調べていく必要があると思っています.

福本ありがとうございます.斎藤先生何かありますでしょうか.

斎藤網塚先生はラットやマウスといった齧歯類を使って薬の効果など研究されていると思います.先ほど私が話したように骨はリモデリングしていく過程で骨の材質が変わっていきます.ラットの場合,皮質骨はハバーシアンシステムがないためリモデリングしません.リモデリングがなくても骨の材質は薬剤の影響で変化するということは起こるのでしょうか.

網塚斎藤先生から,根本的に大切な点をご指摘いただいたと思います.ヒトのサンプルは,マウスやラットとは違います.年齢にもよりますが,ヒトの大腿骨近位部のサンプルをみますと,骨髄はほとんど脂肪化していて脂肪組織の間にわずかな骨髄組織があるだけです.骨表面における骨形成や骨吸収が起きている領域は限局しており,休止面,すなわち,bone lining cellで覆われている骨表面が多かったのを覚えています.従って,斎藤先生がご指摘になった静かな何もしない面というのも考えていかなくてはいけないと思います.それがラットやマウスで再現できるかですが,たとえばラットやマウスの長管骨の皮質骨の骨幹部の中央部をみたら,ヒトの静止面・休止面を反映しているかというと,必ずしもそうでないかもしれません.と申しますのは,そこに存在する細胞や基質の状態は,表現が適切ではないかもしれませんが,ヒトに比べると若々しく,また,骨基質の量がヒトとラット・マウスでは全く異なるからです.このような量的な点を考えますと,ラットやマウスの骨のどこをみればヒトの骨を正確に再現できるかという問いに関しては,あくまでもラット・マウスは骨リモデリングやその制御を見るモデルとしては良いが,残念ながら,ヒトの骨の状態を正確に反映するか否かについては多くの注意点があるのではないかと考えております.

斎藤逆にリモデリングがない状況で何らかの薬剤介入を行った際に,骨質がどのように変化するかを確認するのには齧歯類のモデルは有用と考えます.David Burrらは,皮質の結合水の分布を調べるとアパタイトとコラーゲンのあいだにある結合水の量がコラーゲンやハイドロキシアパタイトの質に影響を及ぼす可能性を指摘しています.細胞を介さない骨質制御機構があるのではないかと思っています.

網塚なるほど,細胞がいなくとも骨基質自体の状態をモデル動物で再現できるかですね.デビット・バーの論文は見逃していましたが,可能性としては解析できると思います.といいますのは,ハイドロアパタイト結晶の成長は,リン酸やカルシウムイオンだけでなくマグネシウムによっても調節されていますし,また,オステオカルシンなどのグラタンパクによってもハイドロキシアパタイトの集積やコラーゲンへの配向性がダイナミックに調節されています.従って,骨基質の石灰化をはじめ構造を調節するのは,無論,骨の細胞群ですが,それだけでなく,物理化学的な要因も大きな影響を及ぼしていると思います.なお,生体内のハイドロキシアパタイト結晶は工業的に生成されるハイドロキシアパタイトとは異なり,骨のハイドロアパタイト結晶の周りにはプロテオグリカン,骨基質蛋白ならびに各イオンの濃度分布が存在する水和層(hydration shell)が想定されていて,それが,ハイドロキシアパタイトの成長を制御することが考えられます.また,プロテオグリカンには様々なイオンが濃縮されるわけですが,そのプリテオグリカンをつくったり壊したりするのが骨の細胞なので,生物学的に制御されているという意見も出てきます.恐らく,生物学的制御も物理化学的制御も両方あるのだと思います.

斎藤低分子量のプリテオグリカンであるデコリンはコラーゲンの線維形成(fibrogenesis)に影響を与えることが知られています.

網塚おっしゃる通りだと思います.

斎藤私共の教室では,組織を加水分解してコラーゲンの翻訳後修飾も網羅的に解析するLC-MAS/MASの手法を確立し,さらに,組織そのものを破壊することなくイメージングするマスイメージングの技術の開発に取り組んでいます.

網塚すごいですね.結果がでたら,是非,教えてください.

斎藤組織解析につきましては,網塚先生と一緒にやっていかないといけませんので,よろしくお願いします.

網塚よろしくお願いします.

福本網塚先生.あと,一つだけ.先生方もいろいろな遺伝子の発現で検討されていますけれど,骨細胞というのは全部均一ではないですよね.

網塚おっしゃる通りです.

福本骨細胞のHeterogeneityについては現状でどの程度わかっているのですか.

網塚福本先生のご質問は非常に大切なことと思います.私たちは骨細胞ネットワークの幾何学構造や分布に注目して研究してきました.一次骨梁の部位では,骨細胞は不規則に埋め込まれていて骨細胞の連結性が非常に悪い,つまり,突起と突起であまり繋がっていないのです.ですから,幼若骨における骨細胞は,不規則に分布しており突起同士の連結性も悪く,グループとして効率的に機能していないと考えられます.このような幼弱骨における骨細胞に対して,機能的なグループを形成しているのは,斎藤先生からご指摘がありました骨幹部の皮質骨の骨細胞です.つまり,骨基質としても成熟し層板状を呈する緻密骨における骨細胞が最も機能的なグループを形成していると考えられます.これまでにFGF23, DMP-1,sclerostinなど骨細胞由来の因子が次々と発見されてきましたが,作られたばかりの幼弱骨における骨細胞,ならびに,コラーゲン線維束が幾何学的に走行して層板状を示す緻密骨における骨細胞とでは,これら骨細胞由来因子の発現は同じではないことが明らかにされています.簡単に言うと,皮質骨で幾何学構造的にも規則的なグループをつくっている骨細胞と,骨の中にごちゃっと埋め込まれただけの骨細胞ではこれらの発現パターンが全然違うということです.ですから,福本先生がご指摘された骨細胞機能のheterogeneityについては,十分に意識する必要があると思います.そして,私たちが考えるべきこととして,骨粗鬆症治療,あるいは,骨折時の骨再生において,量・質とともに良好な緻密骨を目指すこと,また,そこには機能的な骨細胞グループを構築することと考えています.

福本ありがとうございました.網塚先生はいろいろな骨粗鬆症の治療薬の効果についても検討されています.骨粗鬆症薬の開発は一段落した感がありますが,今後さらに望まれる薬剤というのは考えられるでしょうか.

網塚今後さらに望まれる薬剤ですね.その前に私が考慮すべきと思っていることを先にお話しても宜しいでしょうか.

福本どうぞ.

網塚先ほど話に出ましたように,remodeling based bone formationとミニモデリング(mini-modeling)についてです.Mini-modeling,すなわち今でいう,modeling based bone formationが脚光を浴びて,ロモソズマブがそれを誘導し,また,一部,テリパラチドやアバロパラチドも誘導することが述べられています.しかし,今一番欠落しているのが,骨のどういった部位でremodelingが有意に発生して,どういった部位でミニモデリング,つまり,modeling based bone formationが有意に誘導されるかについては議論ができていないことだと思います.何故,重要かといいますと,骨粗鬆症の場合,部位によって骨の幾何学構造や強度や緻密さが違うわけですから,先に骨吸収されて骨基質を除去したほうが良いか,それとも,既存骨に新しい骨をそのまま添加したほうが良いかについて考える必要があると思ったからです.以前,私たちは,PTHの投与間隔を開けてゆくと,ミニモデリング,つまり,modeling based bone formationが誘導されるという論文を出したのですが,それでは逆に,PTHの投与頻度を高くすると,骨リモデリングの頻度も上昇してミニモデリングで作られた骨基質やアレストラインが断裂するかと思ったのですが,そうではなく,ミニモデリングで形成された骨は,結構,維持されていました.すなわち,骨代謝回転が上がれば,ミニモデリングでできた骨は,すぐに改変されてしまうと考えたのですがそうでもないことになります.そうすると,可能性として,骨リモデリングが有意に誘導される部位とミニモデリングが有意に誘導される部位が不均一に存在するのではないか,あるいは,骨梁の幾何学構造やそれに関連した要因によって骨リモデリングやミニモデリングが誘導されやすい場所が決まるのではないかということを推測しています.全くの想像でしかありませんが,もしかしたら,生体の骨というのはミニモデリングと骨リモデリングを上手く使い分けていて,発生期や成長期など骨の形作りが必要な時期にはミニモデリングが有意に,一方で,成人になって骨の形が完成し,骨にかかるメカニカルストレスを分散または対抗できる時期になると骨リモデリングが有意になるのではないか,しかし,骨粗鬆症に陥った場合にはメカニカルストレスに対応できずに,潜在的にミニモデリングを誘導しやすい部位ができているのではないか,といったことを思ったりします.骨粗鬆症治療を考えた場合,メカニカルストレスに対応できる骨を増やす際に,その場の環境に応じて骨リモデリングあるいはミニモデリングのどちらか良い方を誘導することができる薬剤があっても良いと思います.
さて,福本先生のご質問へのお答えとしては,現在の骨粗鬆症治療薬は相当良いところまで来ていると思いますので,各薬剤の欠点を補うような新薬,あるいは,既存薬の処方となるのではないかと思います.
例えば,テリパラチドの問題の1つとしてcortical porosityがあげられますが,その原因として骨代謝回転が上がるからと何となく考えられていると思います.しかし,単純に骨代謝回転が上がれば,緻密骨が分かれて骨梁構造をとるかというとそうではなく,理屈としては,骨基質が改造されて新旧のモザイク状の基質になるはずです.したがって,骨リモデリングの亢進だけではなく,そこに血管をはじめとする軟組織の介入などがないと,層板骨である皮質骨が骨梁状に分岐してゆくという現象は誘導されないのではないかと思っています.ですから,あえて,テリパラチドによる皮質骨の変化を解析して,何が原因となっているのか明らかにすることで,逆に,cortical porosityを誘導しないようなテリパラチドの処方の仕方,あるいは,cortical porosityを誘導しない他剤との併用につなげてゆけるのではないかと思います.
一方,ロモソズマブについては,論文だけでしかわかりませんが,最初は骨芽細胞前駆細胞の増殖が一時的に上がるけれど,ロモソズマブ投与していくと次第に増殖能が下がってしまいます.その点がロモソズマブの弱点で,斎藤先生がおっしゃるように,さらに長く投与すると骨形成が頭打ちになってしまい,むしろ,骨吸収が徐々に上がっていくという問題があるようです.個人的には,ロモソズマブの基礎研究が少なく,単にスクレロスチン阻害だけでなく,それに関連する事象をもっと明らかにすべきと思います.それによって,ロモソズマブの持つ弱点を克服できる方法や見つかるのではと思います.
最後に夢物語のようなことになってしまうのですが,先ほどpiezo1の話をしましたが,piezo1のようなメカノセンサーに作用する薬剤ができれば,お年寄りの方や車いすの方など運動が思うようにできない人でも,あたかも運動をしながら骨を作りあげるようにできれば良いのにと思います.もっと夢物語の話をさせていただきますと,ラットやマウスを観察している限りはそうではないのですが,実際にヒトの骨をみると骨髄がみんな脂肪になってしまっていて,骨芽細胞前駆細胞といえる細胞は非常に少なくなっています.また,血管についても良い状態が保たれているかわからないままですので,私たちは,骨というものを,骨髄,間質細胞や血管などを含めた,もう少し大きい組織体として捉える必要があり,骨の細胞だけでなく周囲の血管や間質細胞や骨髄を考慮した治療ができれば良い.そういう網羅的な薬剤があればいいなと.そんなこと考えていました.

福本ありがとうございます.この点について斎藤先生なにかありますでしょうか.

斎藤そうですね.網塚先生が指摘されたような部位特異性があると思います,骨代謝マーカーは,全身の骨代謝の平均値を見ているに過ぎません.デノスマブに関しても,ロモソズマブについてもさまざまな画像解析によってmodelling baseの骨形成は部位特異的に営まれています.しかし,骨形成マーカーでは全身のその他の部位の骨形成抑制の影響を受けてしまい分からなくなっていまいます.

福本ありがとうございました.

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