日本骨代謝学会

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臨床系 2016年座談会
骨ミネラル代謝研究・臨床における国内外の動向

司会
田中 栄 先生(東京大学大学院医学系研究科感覚・運動機能医学講座整形外科学 教授)

座談会メンバー
大薗恵一 先生(大阪大学大学院医学系研究科小児科学 教授)
宗圓 聰 先生(近畿大学医学部奈良病院整形外科・リウマチ科 教授)
福本誠二 先生(徳島大学藤井節郎記念医科学センター脂溶性ビタミン研究分野 特任教授)

ビタミンD研究について

田中それでは次に大薗先生、お願い致します。

大薗活性型ビタミンD3の本体である1α, 25(OH)2D3が同定されたDelucaのラボに、森井浩世先生、それから須田立雄先生がご留学されたことが、その後の日本におけるビタミンD研究の運命を決定づけたように思います。ここでのご経験を活かされ、須田先生がご帰国後に臨床応用を考えて製剤化されたビタミンD誘導体〔1α(OH)D3〕は1α, 25(OH)2D3の代替物質となり得る、いわばプロドラッグのような位置づけで、これが同分野の研究発展に大きく貢献したのではないでしょうか。その後、1981年に阿部悦子先生がビタミンDの分化誘導作用という、カルシウムや骨に対する影響以外の効果を見つけられたことが、ひいては、破骨細胞誘導とそのキー分子であるRANKLの発見につながっていると思います。
代謝酵素に関して言えば、活性型ビタミンDがホルモンであるということが非常に重要で、この最後のエビデンスとなる受容体の発見に、日本から留学していた方々が大いに貢献しています。クローニング後のビタミンDの作用のなかで、ビタミンD受容体は受容体であるばかりではなく転写因子として働くことがわかり、ゲノムが転写因子として働くためのゲノム側の配列として、ビタミンD応答配列が解明されました。
1α-水酸化酵素のクローニングについては、世界中の様々なラボが挑戦しているなかで、加藤茂明先生のラボが、ビタミンD受容体のノックアウトマウスを用いて、腎臓で1α-水酸化酵素が多量に産生されているだろうということを基にクローニングを行いました。
P450系の酵素から、新木敏正先生がホモロジーを用いたクローニングにより、1α-水酸化酵素を発見され、その後、東大の北中幸子先生が中心となって、代謝異常症であるビタミンD依存症1型の変異について発表され、『New England Journal of Medicine』にも掲載されるなど、本文野で世界をリードしてきたと思います。3)

大薗恵一先生
大薗恵一先生

大薗また、小児とビタミンD代謝、欠乏症に関しては、Surfactantという薬の開発により新生児医療が1985~1986年頃から進歩し、未熟児医療における様々な合併症の病態が解明されてきました。未熟児くる病、未熟児骨減少症に関してはビタミンD不足のみならず、リンやカルシウムの不足などが原因であるため、経口の栄養摂取のみで胎盤機能を補う方法だけではなかなかカバーできないという問題がありました。しかし、現在では大部分を強化栄養で予防できるようになっています。
また、ビタミンD代謝がすべて明らかになったにもかかわらず、1990年代頃から世界的にビタミンD欠乏症が増えてきて、栄養性のくる病の増加が警告されるようになってきました。様々な背景があるかと思いますが、1つは皮膚がん予防のためという理由もあって、日光照射を避ける傾向が世界的に多く見られ、最低限必要なビタミンDの生成がなされていないこと、もう1つは食物アレルギーが増えたことで離乳食を遅らせることが多くなり、食事から補えたはずのビタミンDが不足してしまうこと、という2つが主な要因と思われます。こういった事態を憂慮し、2000年以降は、多くの国が本格的な対策を始めています。
骨代謝学会・内分泌学会や、ホルモン受容機構異常について厚生労働省研究班を主導した尾形悦郎先生、清野佳紀先生、松本俊夫先生らの研究蓄積を以て、「くる病・骨軟化症の診断マニュアル」が作成されましたが、診断においてFGF23にも言及している点は大変ユニークであり、これは他の国ではなかなか見られないものだと思われます。
また、ビタミンDが不足していて、欠乏とまではいかないものの、非充足状態と呼べる状態の人が増え、骨折や転倒のリスクが増える可能性があることから、「ビタミンD不足の判定基準」を現在作成中です。

田中こうして見ると、ビタミンD研究の分野というのは、この半世紀での進展が大きいですね。活性型が見つかった1960年代から、随分と進歩してきたように思います。
ただ、個人的に気になっていることですが、血中25(OH)D3の測定が日本ではできない点が昔から指摘されていますが、ではそれが測定できればよいのかというと、そうでもない。最近では、他にも様々な病気で“25(OH)D3が低いこと”がリスクとなることもわかってきて、生体におけるビタミンDの役割というのが、逆に難しくなっている印象があります。

大薗今回の「ビタミンD不足の判定基準」作成に当たっても、委員のなかで議論があったのですが、25(OH)D3の値のみで決めていくという考え方は、疫学的な研究、例えば一般人口のなかでビタミンD不足の人がどの程度いるのかを判定するときにはよいのですが、臨床現場では、やはり“症状がある”ということが重要で、例えば欠乏状態ではあったとしても症状がない(欠乏症とはいえない)という方はいるわけです。また、小児期は欠乏症の診断、つまりくる病の診断が比較的容易ではありますが、骨軟化症の診断は画像診断上難しいということがあって、25(OH)D3の値で判断しなければならない場合と、目の前の症状を基に判断しなければならない場合とに分かれてしまい、どうしても混乱が生じます。どこまでが重篤な状態かがわからなくなってしまうことも問題です。なお、25(OH)D3の測定はようやく保険収載されました。

田中そうですね。骨軟化症は骨生検をしてみなければわからないというところが難しい点かと思います。

  • 3) Kitanaka S, Takeyama K, Murayama A, et al. Inactivating mutations in the 25-hydroxyvitamin D3 1alpha-hydroxylase gene in patients with pseudovitamin D-deficiency rickets. N Engl J Med. 1998; 338: 653-61.
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